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【1】-2:彼女の視線

 彼女の表情は一見平静だが、目は奈央子と話す柊をじっと見つめている。時折奈央子の方に向ける視線は、どこかトゲトゲしい。
 さっさと話を切り上げようと考えた途端、柊が、
 「そっちも今日は試験終わりだろ。ノートの礼にメシおごるから学食行くか?」
 と言った。
 (バカ!)
 舌打ちしたい気分だった。
 里佳の視線のトゲがいっそう増えた気がする。
 他の三人が何か言う前よりも早く、奈央子は口を開いた。
 「オゴリはありがたいけど、のんびり食べてる暇はないのよ。週明けに出すレポートの資料探さなきゃいけないから。ね、彩乃」
 「……うん、まぁね」
 「それに、これから望月さんとどっか行くんじゃないの?」
 「え。まあ確かに、映画観に行くつもりだけど」
 「だったら食事も二人でしてきなさいよ。せっかくのデートのお邪魔するほど無粋じゃないから、わたしたち。ねえ?」
 再び彩乃に同意を求めると、なにやら複雑そうな表情をしたが、いちおう頷いた。
 それでもまだ場を去ろうとしないばかりか、
 「けど、まだ時間あるしなあ?」
 よりによって里佳にそう尋ねる柊の鈍さに、思わず盛大にため息をつく。心の中で。
 「いいんだって、わたしたちほんとに急ぐから。それじゃ」
 早口で言いおいて、彩乃の腕を引っぱり、二人に手を振ってその場を離れた。
 ——注文を終えて、学生食堂の椅子に腰を落ち着けてからも、彩乃は何度か意味ありげな表情でこちらを見た。何か言いたげな目にも気づいていたが、奈央子はあえて知らないふりで別の話題をふる。
 後期に選択したい科目の話が一段落ついたところで、
 「あのさ、あんまりこのことは言いたくないんだけど……」
 日替わり定食の鶏唐揚げをつつきながら、おもむろに彩乃がそう切り出した。
 来たな、と奈央子は思う。
 「ねえ、やっぱ不毛だよ奈央子。前向きじゃないと思うよ」
 「——うん、そうだね」
 柊は、いわゆる幼なじみだ。
 実家が近く、誕生日が2日違いという縁である。
 もう少し詳しく言うなら、出産予定日の近かった母親同士が、ご近所さんのよしみもあり親しくなった。奈央子の母は初産で柊の方は2度目だったので、前者が後者に頼ることも多かったらしい。



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