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【1】-4:前向きじゃない

 「わかった。じゃあ安斎(あんざい)さんにはあたしからも一言言っておくよ」
 「……うん、悪いけどよろしく」
 安斎さんというのは、彩乃が所属する混声合唱サークルの2年生である。夏休みに入る前、奈央子は彼から交際を申し込まれたが断った。しかしその後も安斎氏は何度か誘ってきており、そのたび断るのだが、あきらめてくれる様子がなかったため、彩乃に相談していたのだった。
 「っと、もう1時だ。早く食べて行かないと」
 「そうだね、明日も試験あるし」
 「ね、もし適当な資料見つからなかったら、そっちが借りてるの見せてもらってもいい?」
 「かまわないよ。なんだったら週末にでも泊まりに来る?」
 「あー、そうさせてもらうかも……まぁまずは探してからね」
 「ん。じゃ行こうか」

 前向きじゃない。
 彩乃に言われるまでもなく、奈央子自身が一番そう思っている。
 実際、柊が里佳と付き合い始めたと知った時、もうやめようとも思ったのだ。それまでだって、同じように考えたことがなかったわけではないけど、あの時はかなり真剣にそう思った。
 それから2年近く経った今。結局思い切れてない自分自身を、どうなんだろうと考えることは当然、ある。
 同時に、あっさり思い切れるなら苦労してない、とも思う。なにせ物心ついてからの10数年、奈央子にとっては当たり前すぎる——もっと言ってしまえば、他に替えようのない位置に存在した気持ち。
 簡潔に言うなら「あきらめが悪い」という一言になるのだろう。そう言われてもしかたないし、自分でも思わないわけではない。
 けれどなるべくなら、そう考えたくはなかった。認めてしまったら負け、とかではなくて……
 そういう次元を超えたところに、この想いがあるのだという気がしている。自分でもうまく表現できないのだけど。

 大学図書館での資料探しの後。
 奈央子は彩乃と別れて通学路線の中継駅で下り、隣接するショッピングビルに寄り道をした。
 自宅から大学の最寄り駅までは30分程度だが、途中で一度乗り換える必要がある。その中継駅の周辺は、大きなビルや商業施設等が建ち並ぶ市の中心地となっている。
 日常的な買い物なら最寄り駅周辺でも間に合うのだが、中継駅近くの大型店や市立図書館に寄るついでに、と途中下車することも少なくない。この地域でバイトをしている学生も結構いるはずだ。



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