« 【1】-5:話題の指輪 | トップページ | 【2】-1:試験2週目 »

【1】-6:「おまえは?」

 「なに、望月さんにリクエストでもされたの?」
 「いや……はっきり言われたわけじゃないけど。茶店でしゃべってる時にそういう話題が出たから」
 「話に出したのって望月さんからでしょ。てことはやっぱり、ちょっとは欲しいと思ってるからじゃないの」
 「そうかなあ……」
 柊は首を傾げる。その様子が、あくまでも純粋に疑問に思ってるふうなので、奈央子は「やれやれ」と思う。根本的に女心に鈍感なのだ。嘆くべきなのかどうなのか……複雑である。
 考え込んでいた柊が、再びこちらを向いた。
 「おまえは?」
 「えっ?」
 「だからさ、おまえもこういうの欲しいって思うわけ?」
 真顔で聞かれて、思わずどきりとする。
 もちろん、柊が全く他意なく聞いているのはわかっている。シチュエーション的に、勝手にこちらが意識しているだけなのだ。
 「わたし? え、と、そうねえ……」
 そう自己判断しつつも、声が上ずりかけている。考えるふりをして口に手を当て、気づかれないように深呼吸した。
 「……まあ、別に無理してまで買ってもらおうとは思わないけど。でも、もらえたら嬉しいかな、やっぱり」
 「ふうん?」
 そういうもんかな、と柊は呟く。
 そういうもんなのよ、と返したい気分だったが、余計なことは言わないでおこうと、心の中で言うだけにとどめた。
 「——あ、やばい、15分前だ。じゃあな」
 「はいはい、がんばってね」
 下りエスカレーター方面へと走り去っていく柊の背中に、奈央子は手を振った。
 その姿が見えなくなってから、無意識に詰めていた息をようやく吐き出す。
 久々に、柄にもなく緊張した。
 大抵のことには動じなくなっているはずなのだが……先ほどのような近い距離で、真顔で見つめられるのは、いまだにどうも落ち着かない。そうする柊の側に、まるで深い意味はないと承知していても。
 柊は特別に目立つ顔立ちではないが、奈央子が見る限りでは平均より整っている。やや童顔なところも、ある意味女の子受けのする容貌だと言える。真剣な表情は結構いけてる、とも思ったりしていた。
 最後の部分は欲目も入ってるかも知れないが、とにかく、そういう顔で見られると先ほどのような条件反射が起こってしまう。心臓をきゅっとつかまれたような気分になる。
 (修行が足りないなあ……)
 10年以上も変わらない反応を、そんなふうに考えてしまう奈央子だった。


 ←前ページ  目次に戻る  次ページ→

|

« 【1】-5:話題の指輪 | トップページ | 【2】-1:試験2週目 »

小説 -『ココロの距離』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 【1】-5:話題の指輪 | トップページ | 【2】-1:試験2週目 »