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【2】-4:気にかかること

 ……同時に、奈央子が湯浅と付き合わなくてよかった、と安堵している自分に気づいた。気づいた途端に戸惑う。
 当時もし、気づいていたとしたら。そうならなくてよかったと思うのは同じだったろう。湯浅の自信過剰さ、そこに基づく嫌味な態度が気に入らなかったからだ。
 しかしその場合、湯浅がふられたのがいい気味、と感じるのが基本だったと思う。今みたいに、あんな奴と付き合わなくてよかった、と奈央子の方に比重を置いては考えなかったのではないか——  
 無意識に、それ以上深く考えるのはやめた。ちょうど自宅に到着したからでもあった。
 郵便受けを確認し、中身を手に取る。1DK部屋の隅のゴミ箱に、生命保険やら何やらのダイレクトメールをまとめて放り込んだ。
 晩メシをどうしようか、と考える。自炊を全くしないわけではないが、どうも面倒くさいと思う方なので、外食やコンビニ弁当が多くなりがちである。
 しかし給料前で、仕送りは月初めなので、懐はあまり暖かくない。米はまだ残っているが、おかずにできる材料があったかどうか。
 などと考えながら、本棚兼物入れにしているラックの方へ目をやると、明日の試験科目であるドイツ語のテキストが半分はみ出している。
 それを見た途端、気にかかることを思い出した。

 携帯が鳴った時、奈央子はちょうど家に帰り着いたところだった。マンションの自分の部屋の前、手にしたスーパーの買い物袋をいったん下に置き、さて鍵を開けよう——というタイミングだった。
 慌ててカバンから携帯を取り出し、ディスプレイを見ると、登録してある名前が表示されている。柊の番号だった。
 この時間に電話してくるということは、今日はバイト休みなんだろうかと考えつつ、通話ボタンを押す。
 「もしもし」
 『もしもし、奈央子? 聞きたいことがあるんだけど』
 「ちょっと待って、今家に入るところだから……オッケー、いいわよ。なに?」
 『明日のドイツ語のことなんだけど。範囲何ページまでだったっけ?』
 「えーっと——確か47ページまでだったと思うけど」
 『げ、マジ?』
 「マジよ。それが?」



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