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【3】-10:彼女たちの会話

 彼によれば、話していたのはほとんど里佳一人であり、先に出ていったのも里佳だった。そして奈央子はその後、やけに元気のない様子で、長いこと席を立たなかったという。
 その話を木下経由で聞いたのはつい先ほど、ミーティングが始まるのを待ってる間のことだった。
 約10日前、奈央子が里佳をもっと大事にしろと言った時、里佳と何かあったのかと聞いたのは単なる直感——と言えば聞こえはいいが、どちらかと言えば当てずっぽうだった。ただ、里佳との付き合いに関して、奈央子の方から口を出された覚えはなかったので(柊から相談したことは何度もあったが)、なにか変だと思ったのは確かだ。
 しかし学内でも、週末に会った時にも、里佳の言動に特別な変化は感じられなかった。だから、二人に本当に何かがあったとは考えていなかった。木下から話を聞くまでは。
 入学後に顔を合わせて以来、里佳が奈央子に対してさほど好意的でないのは、理由はわからないながらも気づいていた。奈央子もおそらくはわかっていて、この半年、里佳と積極的に関わることはしていなかった。
 そういう彼女たちが、二人だけで会って話していたというのは、どうも奇妙だ。いったい、話すような何事があったのだろう。
 ……ミーティングが終わったのは、昼休み終了の15分前だった。司会が解散を告げた後は、3時限目の講義へと急ぐ者、遅い昼食をどうしようかと話している者と様々である。
 柊は3時限目は休講で空いていたので、学生食堂へ腹ごしらえに行くつもりだった。ちなみに木下は早々に次の講義教室へと向かってすでにいない。
 会議室を出ようとしたところで、里佳に呼び止められた。他の邪魔にならないよう、通路に出る。
 「ねえ羽村くん、今日の約束忘れてないよね」
 「約束?」
 「やだ、5限の後で、新しくできた駅前のカフェにディナー食べに行こうって言ったじゃない、昨日」
 そういえばそんな話をした気がする。里佳が雑誌で見つけて行きたがっていて、今日ならバイト休みだから別にかまわない、と答えたような……
 「ああ、それ——いや、言おうと思って忘れてたけど、行けなくなった」
 「……えっ?」
 「昨日のバイト中に、明日急に人が足りなくなったから入ってくれって、店長に言われて」
 と言ったが、嘘である。
 里佳と何があったのか、なんとか奈央子に連絡をつけて聞きたかった。一刻も早くそうしないと落ち着かない気分だったので、今日の夜は空けておきたかったのだ。



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