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【3】-11:昨日は

 ——先に里佳ではなく、奈央子に聞こうと考えたことを、柊は不自然とは感じていなかった。目の前に里佳がいるにも関わらず。
 「そうなの? じゃあ仕方ないね……」
 残念そうに表情を曇らせた里佳に、少しだけ申し訳なく思ったが、その感情はすぐに心の隅に押しやられた。無意識のうちに。
 「じゃ、近いうちに都合のいい日、考えておいて。また電話するから」
 そう言いおいて、里佳は小走りで通路を駆けていき、階段を下りていった。
 里佳の姿が見えなくなってから、柊もその場を離れて歩き始めた。まずは昼メシをすませて、3時限目が終わる頃に電話してみようと考えながら。
 奈央子の時間割を詳細には知らないが、後期の月曜は5時限目は取らないと、確か言っていた気がする。その後変更した可能性もあるが、とりあえずは講義の合間を狙って携帯にかけてみようと思う。着信チェックぐらいはするだろうし、その時にタイミング良くかかれば電話に出るかも知れない。
 そんなふうに決めたら、多少は落ち着いてきた。学食の日替わり定食は何だろうか、と考える程度には、気分にゆとりもできていた。
 柊は地下にある学生食堂を目指し、エレベーターの方角へ向かった。

 ——気がつくと、窓の外はすでに明るかった。
 枕元の時計を見ると、7時5分前を指している。
 時計から手を離し、柊は再びベッドに転がった。……全然、眠った気がしない、
 実際、ほとんど眠っていないのではと思う。寝ようとした時間自体はそれほど遅くなかったが、かなり長いこと寝つけず、嫌になるほど寝返りを打っていた覚えがある。
 今日は1時限目に、史学演習が入っている。数人ごとのグループでテーマを決め、順番に発表するのが後期の方針だった。柊のグループは再来週の予定で、そろそろ大筋を決めなければならない段階だ。
 時間中に意見交換をする約束なので、サボるわけにはいかない。そう思いつつも、全身が気だるくてなかなか起き上がる気になれなかった。
 ……昨日は結局、奈央子と連絡は取れなかった。
 正確に言えば、携帯にかけてみて、3度目で1回繋がった。だが例によってすぐ切ろうとしたので、なんとか制止して「聞きたいことがあるから会えないか」と言ったのだが、今日はずっと講義だからと断られた。その後でもいいと言うと、一瞬沈黙した後、彩乃と約束があると答えた。
 そう言う口調が若干ぎこちなかったので、じゃあ何時に帰るのかと聞くと「わからないけど遅くなると思うから今日は無理」と奈央子は早口で言い、直後、通話を切ってしまった。



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