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【3】-2:「好きなんでしょう」

 言うまでもない気はしたが、他に適当なことを思いつかなかった。社会学部生の彼女が文学部棟に来るなら、それぐらいしか理由がないだろうと思ったからでもあるが。
 「知ってるわ」
 案の定そう返された。でも今日は、と続ける。
 「あなたに話があるの、沢辺さん」
 「え?」
 「時間ある?」
 一瞬嘘を言うことも考えたが、結局は正直に4時限目が空いていると答える。それを聞いて里佳は、身振りでついて来るようにと促した。
 思わず出てきた教室を振り返ったが、柊はまだ席を立たず、他の学生としゃべっている。
 仕方なく奈央子は、里佳の後ろについて歩き出した。
 しばらく歩き回った結果、学内の喫茶室に席の空きを見つけ、そこに入った。互いに注文を終えて店員が去ると、里佳はすぐ口火を切った。
 「単刀直入に聞くわ。あなた、羽村くんのことどう思ってるの。……いいえ、聞くまでもないわよね。好きなんでしょう」
 断定口調で言われ、すぐには返す言葉が出てこなかった。
 なるべく、周囲には気取られないようにと振る舞ってきたつもりだが——里佳には気づかれているだろうとは思っていた。
 そしていずれは、こうやって正面切って話をしなければならないだろうとも。今さら隠しても仕方ないと腹をくくり、奈央子は言った。
 「そうね、望月さんの言う通りよ」
 やっぱりね、という表情を里佳は浮かべた。
 「だったら、言わなくても分かってるわよね……羽村くんに近づかないでほしいって」
 「それは……」
 「あなたたちが幼なじみなのは知ってる。彼が、あなたのことを頼りにしてるのも——私とのことだって、真っ先にあなたに相談するぐらいだものね」
 確かにそうだった。
 高2の夏、里佳に告白された日の夜、わざわざ部屋まで訪ねてきて柊は言ったのだ。『どうしたらいいと思う?』と。それまで女の子から告白された経験がなく、また付き合ったこともなかった彼としては、ともかく戸惑ってしまったらしい。
 だがそんなふうに聞きながらも、柊はやけに嬉しそうだった。望月里佳が、柊の通う高校内では噂の「注目株の女子」だという話は何度か聞かされていた。同じく女子としては品定めっぽい言い方が気になったが、件の里佳が可愛らしくて魅力的なことは(写真を見たことがあったので)、奈央子も認めていた。
 だから、『そんなに嬉しいんだったら付き合えば?』と答えたのだ。



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