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【3】-3:彼女の言う通り

 柊は、時々無神経すぎるぐらいに素直だ。その時も『それもそうか』と言って、翌日すぐ里佳にOKの返事をした(らしい)。それからの2年間、二人は特にケンカをすることもなく、見る限りではそれなりに仲良く付き合っている。
 「あなたが頼られるのはわからなくはないわ。羽村くんにとっては一番身近にいる『優等生』なんだものね。彼は不真面目ってわけじゃないけど、優等生というほどでもないし——でもね」
 そこで注文した飲み物が運ばれてきたので、会話はいったん途切れた。店員が再び離れていき、里佳が自分のアイスコーヒーを一口飲んでから、
 「講義のノートとかはまだいいの。それよりも嫌なのは他のこと……彼が私とのことをあなたに相談したり、あなたが彼の世話を焼いたりすることなの。知ってるわよ、たまに掃除したり、ごはん作ったりしてること。試験中も1回あったでしょう」
 その通りなので、奈央子は頷くしかない。
 ……それ以上に思い出されるのは、あの時、柊に半ば抱きつく格好になったことだ。偶然の結果には違いなかったが、翌日は少しばかり心穏やかではなかった。もっとも、柊の方は気にしていなかっただろうけど——離れるまでの間が変に長く感じたのも気のせい、こちらの考えすぎだ。奈央子自身が一瞬意識しすぎてしまったから、そう思っただけだ。
 「沢辺さんが彼のことを好きでなかったとしても、同じことをたぶん言ってる。……だって、あなたは美人だし、認めたくないけどよくできた人だもの。わかるでしょ? そういう人に、彼に近づいてほしくないって気持ち」
 まして、と里佳は勢い込んで続ける。
 「あなたは羽村くんが好きなんだもの。そういう、料理とか掃除とか、彼に頼まれたから仕方なく……なんて思ってたとしても、心の底では嬉しくてやってるんだってわかるもの。……すごく、嫌なのよそういうの」
 「——そうでしょうね」
 奈央子は認めざるを得なかった。何もかも里佳の言う通りだったから。
 今も変わらず、柊に頼られることは嬉しかった。その嬉しさに、幼なじみとしての特権意識が含まれていなかったとは言えない。
 大学入学後は、講義や課題に関することはともかく、それ以外の柊のプライベートには近づかないようにすべきだと思い、できる限りそうしてきた……してきたつもりだった。
 けれど、どうしてもと頼まれたりすると、断りきれなくて……結局、先日の夕食も含めて5・6回、月に1度ぐらいの割合で、柊の家で何らかの家事をやっていた。柊がそういう方面にはものぐさ気味であることも知った上で。



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