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【3】-4:ずるいこと

 わかった上でやっていたのだから、責められても文句は言えない。里佳は柊の「彼女」なのだから。
 「自覚してるだろうから、これ以上は言わないでおくわ。今後、あなたが調子に乗って羽村くんに近づきすぎるのをやめてくれれば、それでいいのよ」
 それじゃ、と里佳はアイスコーヒーの代金を置いて、席を立つ。彼女が店を出ていってから、奈央子はようやく、注文したハーブティーに口をつける。……すっかり、冷めてしまっていた。
 『調子に乗って』。
 里佳が最後に言った言葉が、脳裏に焼き付いている。一番痛いところを突かれた気分だった。
 実際、その通りだからだ。
 幼なじみの立場と、柊の変わらない態度をいいことに、「世話を焼く」ことをやめていなかった——最低限でしか。里佳を尊重はするけれど、彼女がいないところでも完全にそうしていたわけでは、結果的にはなかった。
 いくら理由をつけてみても、結局、奈央子自身がそうしたいからしていたのだ。それを他人に、しかも一番言われたくない相手に指摘されるのが、こんなにショックなことだとは知らなかった。
 ……考えれば考えるほど、自分がずるい人間だと思えてくる。そもそも、この大学に入ったこと自体が、最大のずるいことではなかったのか。
 自分と彩乃しか知らないことだが、国立大学に落ちたのは不可抗力ではなかった。
 二次試験で、解答用紙を全て白紙で出したのだ。
 模試での偏差値は、余裕とは言えないまでも充分合格可能な数値で、センター試験の結果も決して悪くなかったから、何故落ちたのかと周囲には(特に両親や教師には)首を傾げられた。だが誰に聞かれても、「体調が悪くて満足に解けなかった」と言い逃れた。
 本当の理由は、K大に行く可能性を高くしたかったからだ。国立二次試験の半月前にK大の発表は済んでいて、奈央子も柊も合格が分かっていた。
 本命の国立に受かれば、学費が安くて自宅から通える範囲内のそちらを優先せざるを得なくなる。けれど不合格ならば、受験する私立の中で一番偏差値が高いのはK大だったから、ここを選んでも変には思われないだろう、と考えたのだ。
 唯一の心配は、実家から一番遠い点を指摘されないか、ということだったけど……そこは意外にも追求されなかった。それどころか両親は、毎日片道2時間は大変だろうからと、一人暮らしの許可まで出してくれた。
 安心はしたけれど、同時に申し訳なくも思った。奈央子の父は典型的な中小企業のサラリーマンで、私立大学の授業料を楽々払えるほどの高給取りとは言えなかったからだ。
 今でも感謝と申し訳なさは感じているけれど……柊と同じ大学に通えている嬉しさの方が大きくて、忘れてしまっている時も少なくない。



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