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【3】-5:離れていかなければ

 (わたし、何してるんだろう)
 何のために、高校を公立でなく女子高に行ったのか——中学の間も「幼なじみ」でしかいられなかったことに嫌気がさして、柊から離れるためだった。
 そのつもりだったはずだ。それなのに、柊が里佳と付き合い始めてから、じわじわと、自分とは別の学校で自分の知らない生活をしていることが、気になって仕方なくなった。
 社会人になったらたぶん、嫌でも違う場所に生活基盤を持たなければならなくなる。その時に未練がないように、せめて最後の学生生活は同じところで過ごしたい——それだけのために、周囲の大半に嘘をついて、K大に入学した。高校に引き続きの私立で、両親には経済的負担をかけてまで。
 ……本当に、何をやっているのだろう。
 自分勝手な恋愛、それも完全な片想いなのに、いまだにあきらめずにいて。それだけならまだしも、相手から離れたい、いややっぱり一緒にいたいと決意を二転三転させて、挙げ句に周りをだましてまで。
 ハーブティーのカモミールの味が、ひどく苦く感じられた。

 その2日後。
 2時限目の西洋史概説が終わった大教室で、奈央子が持ち物をまとめていると、柊が近寄ってきた。
 思わず逃げたくなったがそういうわけにもいかない。と考えているうちに、柊は隣の空き椅子に座る。
 「なんだ、おまえもこの講義取るつもりなのか」
 「……うーん、まだ考え中だけど」
 「自由選択用だろ? だったら取っとけよ。あの教授はそんなに採点厳しくないし、同じ講義が増えたらおれも助かるし」
 「要するにそういう目的?」
 話しつつ、とりあえずは笑顔でいる。だが、我ながらなんだかぎこちない感じがしていた。
 柊がふと、やや心配そうな色を顔に浮かべた。
 「なあ、おまえ朝からちょっと元気なさげだぞ。秋風邪でもひいたか?」
 「なにそれ、秋風邪って」
 内心の動揺を押し隠し、わざとまぜ返す。
 昨日は語学のない曜日で、学内にいる間も柊には出くわさなかったので、正直助かった。
 一昨日から、講義中もバイトの間も、事あるごとに考えていた。特に、家に一人でいる時は。
 柊から離れていかなければならない。
 プライベートでは当然に、講義等に関することでも可能な限り……そうしなければ、いつまで経っても状況は変わらないし、里佳の不満も大きくなるばかりだろう。
 何より、気持ちを変えるための決心がつかない。



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