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【3】-6:タイミング

 ——けれど、どう話せばいいのか。それが悩みどころだった。考えて考えて、ここ2日はあまり眠れていない。
 あくびをかみ殺し、口の中の息を吐き出す。
 それをため息と取ったらしく、柊が言った。
 「ひょっとして今頃試験疲れか? 年取ると筋肉痛とかが2・3日経ってから出てくるっていうけど、そういうやつか」
 「……あのね、2日しか違わないんですけど、誕生日」
 「まあそれは冗談として。景気付けになんか食いに行くか? ちょうど昼休みだし、こないだのノートの礼もしてないし」
 試験中に言っていた「オゴリ」のことだろう。まだ律儀に果たすつもりらしい。奈央子は断りかけて——途中で思い直した。
 「そう? じゃあありがたくご馳走になろうかな」
 食事の席なら、少しは話を切り出しやすいかも知れない。そう考えた。
 お互い3時限目に用事があるということで、選んだのは学内のステーキ料理店だった。大学からの委託で入っている外部店舗の一つである。
 席につくと柊は、一番人気のステーキランチを2人前注文した。
 「え、いいわよ。1200円もするのに」
 思わずそう言うと、柊は笑って手を振った。
 「気にするなって。こないだ入った給料がまだ残ってるし」
 科目選択期間のせいか、学内を行き来する学生の数は普段よりも多く思える。店内も満席で、厨房での調理の音も相まって結構ざわついていた。やがて料理が運ばれてきて、煙と匂いが文字通り目の前に広がる。
 内容が内容だけに、静かすぎる場所で話すよりは良いような気もするが……しかし、気持ちよいほどの食べっぷりを見せる柊を目にしていると、どうもタイミングがつかみづらい。
 あまり箸の動きが遅いと変に思われそうで、なるべく普段通りのスピードで食べようとするが、ともすれば喉につかえそうな心地がする。せっかくの味も半分わからないぐらいだった。
 柊の方はすでに、ごはんのお代わりなど頼んでいる状況である。
 たまに、こんなふうに一緒に食事をする機会は、実家にいる頃からのひそかな楽しみだった。何かの折に自分で作ったものを食べてもらい、気に入った時の嬉しそうな顔を見ることは、特に。
 そんな思いも今は、すぐに自己嫌悪に取って代わる。……つらい。
 考えてる間にも、柊の前の食器からはどんどん料理が減っていく。昼休みも残り20分程度になっていた。



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