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【3】-7:素直すぎる

 内心焦り始めた時、柊がこう聞いてきた。
 「なあ、近々筑前煮を作る予定とかない?」
 「え、——なんでよ」
 これ食べてたら、と小鉢の野菜の煮物を指して、
 「久々に食いたくなってきて。おまえが作るやつ、うちの母親に習った味だろ」
 今だ、と奈央子は思った。すかさず言う。
 「望月さんに作ってもらえば?」
 それを聞いて柊はきょとんとした顔になる。理由はわかるが、ここは話を続けなければならない。
 「おばさんから、望月さんに作り方教えてもらえば済む話でしょ。仲良くしてもらうちょうどいい機会じゃない」
 この2年の間に、里佳を実家に1・2度呼んではいるが、柊の両親とはまだ打ち解けてるとは言えない程度なのを奈央子は知っていた。
 わけがわからない、といった様子で柊はまばたきを速くした。しばしの沈黙の後、
 「……それはそうかも知れないけど、でもさ、慣れてるおまえが作る方が手っ取り早いだろ。それに、望月はあんまり料理が得意って言えないし」
 多少は戸惑っているようだが、基本的にはいつもと変わらない口調だ。その明快極まりない、もっと言うなら正直すぎる言い方に、急にムカっとしてきた。
 「——そういう言い方やめなさいよ。彼女でしょ」
 時々本当に、無神経なぐらいに素直すぎる……むしろ鈍感と言い替えるべきか。
 「だいたい、あんた、望月さんのことちゃんと大事にしてるの? なんか……恋人として接してあげてないみたいに見えるわよ、たまに」
 「————?」
 「望月さんを最優先に考えてあげてない時があるって言ってるの、今みたいにね。2年も付き合ってるのに、おばさんと仲良くしてもらいたいとか思わないわけ? そんな調子じゃ先々困るのはあんたの方なんだから。嫁と姑の確執で板挟み、ってよくあるんだし」
 「嫁姑……って、おい何の話を」
 「ともかく、もっと望月さんの身になって考えてあげてよ。彼女なんだから。料理とか掃除とか何かの相談とか、そういうことは全部望月さんにやってもらうのが一番いいの」
 柊に説教しながら、同じことを自分自身にも言い聞かせていた。事実を再確認して、もう忘れることの——『調子に乗る』ことのないように。



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