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【3】-9:会わず話さず

 10日ほど前のあの日以来、めったに顔を合わせない。学科が違うからこれまでも頻繁に会っていたわけではないが、最近は見かけることすら極端に少なかった。入学して約半年、こうまで学内で行き会わなかったことはないと思うほどである。
 それどころか、避けられているんじゃないか、という気さえしている。数日前に講義棟の中で見かけて声をかけた時、奈央子は何故か気づかない素振りで通り過ぎようとした。一緒にいた友人の彩乃に引き止められ、こちらを振り返りはしたが、軽く手を振っただけでまた背を向け、講義棟の外へと歩いていった。奈央子の一連の行動に、傍らの彩乃は、少なからず戸惑っている様子だった。たぶん柊と同じように。
 クラスが同じ語学の時間は当然会うものの、奈央子が終了後は妙に素早く教室を出ていくので、話しかけるタイミングがない。しかも、思い返してみれば、意図的に離れた席を毎時間選んでいるようでもあった。そして、選択期間に出席していた西洋史概説の講義は、履修登録しなかったのか、2週目には姿を現さなかった。
 つまり、この10日近く、奈央子とはほとんど話してもいないのだ。何気ない挨拶ですら。
 何度か電話やメールもしてみたが、半分以上は留守電や未返信で、たまに返答があってもごく短い。電話なら「忙しいから」などとすぐに切りたがる。
 どうしたというのだろう。
 もともと、特別にベタベタした関係ではなかったけれど、これほどの「会わず話さず」の状態は異常に思えた。
 ……考えてみると、高校が別だった3年間も、1週間以上会わないことは(修学旅行や家族旅行などの時を別にすれば)めったになかった。母親同士の仲が良かったから、頻繁にお総菜やらお菓子やらをもらったりあげたりしていて、そのたびに自分や奈央子が遣いになって行き来していた。そして、訪ねる側がお茶に呼ばれたりするのも恒例で、そういう日が週に2回はあったものだ。
 ということは——大げさに言ってしまえば、物心ついてからの10数年で初めて、奈央子とろくに会わない時期が続いていることになる。
 「なあ、木下」
 「ん?」
 「2週間ぐらい前、望月と奈央子が学食で話してるのを誰かが見たって言ってたよな?」
 「ああ、さっきの話か? 学部の知り合いがたまたま近くの席に座ってて見たって。学食じゃなくて喫茶だけどな」
 その「学部の知り合い」は以前、奈央子のことを「聞かれたことがある」と言っていた学生らしかった。二人とも、奈央子にある程度の興味を持っていたから、覚えていたし話題にもしたのだろう。



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