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【3】-12:不安定な気分

 その後は、何度かけても呼び出し音ばかりで、そのうち「電源が入っていないか……」のアナウンスに変わった。講義が終わった後、時間をおいて奈央子のマンションを訪ねてみたが、2回とも応答はなかった。2度目は9時近かったにもかかわらず。
 本当にいなかったのか、あるいは……理由もなく居留守を使うような相手ではない。もしそうだったとしたら何故なのか。
 そんなことまで考えてしまうのは、こんなふうに自分と会わないでいる理由がわからないからだ。今まで、多少無理な頼みでもたいていは聞いてくれていた幼なじみが、急に顔を合わせるのを避け始め、連絡にもまともに応じない。変に思うなという方が無理だった。
 それでも先週のうちは、課題やサークルの件で忙しいこともあって、四六時中気にしていたわけではなかった。ふと思い出した時も、本当に忙しい可能性もあるしそのうちまた戻るだろう、と結論づけていた。しかし……
 里佳とのことを耳にしてからは、そう考えていられなくなった。時々感じるだけだった不安定な気分が、一気にふくらんだような心地がした。
 なぜこんなに気にかかるのだろうと自分で思うほど、やけに落ち着かない。奈央子との付き合いはいわば、長く続いた日常であり、それが変わることに違和感があるのだろうかと思うが……同時に、それだけではないと、心のどこかで漠然と感じていた。しかし、何なのかまではわからない。
 考えているうちに、時間は7時半を過ぎていた。1時限目は8時50分からで、間に合うためには8時過ぎには出なくてはならない。
 起き上がって着替え、生の食パンにジャムを塗って食べていると、インターホンが鳴った。
 誰だと思いながらドアを開けると——里佳が立っていた。ちゃんと化粧した顔で、微笑みながら。
 「あ、おはよう。ちゃんと起きてたのね」
 「……なんだよ」
 「1限から演習でしょ? 今日はサボれないって言ってたから、遅刻しないように一緒に行こうと思って」
 柊が朝に弱いことを知っているので、里佳がこうやって誘いに来ることは今までにもあった。機嫌の良くなさそうな様子も早起きのせいだと思ってか、里佳は不審感を持たなかったようだ。相変わらずの笑顔で「そろそろ行ける?」と尋ねてくる。
 しばし考えた末、柊は今日の予定を変更することに決めた。



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