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【3】-16:彼女という存在

 けれど、異性としてどう思っているのかと聞かれると……よくよく考えると、答えが出てこない自分に気づいた。
 そんなふうに意識したことがない、と言うのは少し違う気がする。奈央子がいわゆる「才色兼備」なのは確かだし、そのことは認めていた。
 しかし、子どもの頃から見てきた柊にとっては、ある意味でそれは当たり前すぎて……意識する必要もないぐらい、身近な存在だったと言うべきか。
 ふと、先月のことが思い出された——奈央子がドイツ語のノートを持ってきてくれた日のこと。同時に、その時に感じた焦りに似た気持ちも蘇り、途端に胸が騒ぐ。思いもしない反応とその激しさに柊はうろたえた。
 気分を落ち着かせようと、違うことを考えようとしているうちに、寝不足のせいもあってかしばらく眠ってしまったらしい。今は何時なのだろう。
 再びインターホンが鳴る。億劫で起き上がらずにいると、ドアの開く音がした。一瞬驚いたが、里佳が出ていった後、鍵をかけた覚えがないのを思い出した。
 「……柊、いるの、いないの?」
 しばらくの間の後、聞こえたのは奈央子の声だった。頭の中に残っていた靄が一気に取り払われる。
 慌てて起き上がった直後、幼なじみがそっと顔をのぞかせた。目を見開く。
 「なんだ、いるんじゃない。どうして電話に出なかったの?」
 そう言われてみれば、しばらく前に携帯が鳴ったような気もする……半分眠っていたし、面倒で出る気もしなかったのだが。
 答えを待たず、柊の様子と、部屋をさっと見回して、奈央子が言う。
 「今まで寝てたわけ? 風邪でも引いた?」
 「……いや、そういうわけじゃ」
 歯切れの悪い柊の返答に、奈央子が眉を寄せた。
 「じゃあ、どうしたのよ。1限に演習があったんでしょ? レポートの打ち合わせだったのに来なかったって、語学一緒の史学科の人が困ってたわよ」
 半分怒ったような口調だが、心配して言ってくれているのだとわかる。そのことが今はひどく嬉しくて、そして心地良かった。
 奈央子はその後しばらく、視線を下に向け、なにか考えているようだった。一度はこちらを見て口を開きかけたが、迷うような間を置いて何も言わずにまた視線を落とす。
 なぜかため息をひとつついてから、柊が座っているベッドの方へと近づいてきた。カバンを肩から下ろし、紙の束を挟んだクリアファイルを取り出す。



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