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【4】-1:翌日、水曜日

 「……奈央子? 目、真っ赤じゃない」
 翌日、水曜日。
 2時限目の英語学概論で会った彩乃は、奈央子の顔を見て開口一番そう言った。
 「——やっぱりわかる?」
 「わかるよー。どうしたの」
 「うん……ちょっと昨日眠れなくて」
 眠れなかったのは事実だが、理由を言う気にはなれなかったので語尾をにごす。幸い、彩乃は追求してこなかった。
 「そうなんだ。じゃあ語学概論、眠くなったらちょっと寝たら? 後でノートコピーしてあげるから」
 「ん、ありがと」
 少し笑ってそう答えた時、チャイムが鳴り、担当教授が教室に入ってきた。百数十名の英文科学生が一瞬ざわめいた後、波が引くように静かになる。
 ——90分後、終了のチャイムと同時に、再び教室内にざわめきが広がった。これから50分間は昼休みである。
 隣にいる彩乃が、「学食行かない?」と誘ってきた。食費節約のため、週に何度かは弁当にしている奈央子だが、今朝はさすがに作る気力がなかった。
 彩乃と連れ立って講義棟を後にし、学生食堂へと急ぐ。時間が時間だけに、入り口から中をのぞき見た限りでも、すでに大部分の席が埋まっているようだった。食券売場の前にも長い列ができている。
 しばし相談の結果、彩乃が券を買い、奈央子が席を探しに行くことにした。食堂の中に入り、2人分の席がないかと見回す——と。
 奈央子が立っている、テーブルとテーブルの間の通路、その延長線上に柊の姿があった。同じように席を探しているのか、食堂内をきょろきょろと見回している。
 思わず硬直したその時、柊がこちらに気づいた。はっと息を飲むようにわずかに口を開き、動きを止める。
 奈央子も、動くことができなかった。
 何秒か、何10秒かののち、柊がこちらを目指して歩き出そうとした。それを認めた途端、金しばりが解けたように、体が勝手に反応した。
 柊に背を向け、出入口を目指して走る。追いかけてきませんようにと願いながら、食堂を、学生会館をも走り抜け、建物の裏に出た。
 近くの石段に腰を下ろし、呼吸を整えていると、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえた。反射的に立ち上がったが、姿を現したのが彩乃であるのに安心し、再び石段に座り込む。




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