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【4】-2:本気とは思えない

 「ど……うした、のよ」
 息を切らしながら尋ねる彩乃の手には、食券が2枚握られていた。そういえば完全に忘れていた。
 「……ごめん」
 食券に目をやりながら謝る奈央子に、彩乃は顔を近づけた。すでに隣に場所を確保して座っている。
 「それよりも理由を話してよ。ちょうど券を買って食堂に入ったところで、あんたを見つけたの。なんか様子が変だったから見回してみたら、羽村がいたでしょ。あっちが近づこうとしたらあんたが逃げて……羽村は追いかけようとしたけどやめたみたいだった。何があったの?」
 奈央子は、胸と喉につかえる苦みを感じた。
 見られてしまったのなら、話さなければ納得してもらえないだろう。……どのみち、彩乃にはいずれ気づかれるはずのことだ。いつまでも秘密にはしておけない。
 けれど、口に出そうとするとつらかった。言おうと何度も努力するが、言葉が出てこない。そんな様子に、彩乃は顔を曇らせた。小さな声で尋ねる。
 「そんなに言いにくいことなの?」
 逡巡した後、奈央子は首を振る。縦でなく横に。
 「——確かに言いにくいんだけど、でも……一人で考えてるともっとつらいから。あのね——」
 意を決して、昨日のことを全部話した。泣きながらマンションに帰り、夜もほとんど眠れなかったことも。
 聞き終わった後、彩乃はちょっと待っててと言いおき、建物の正面方向へ走っていった。10分ほどして戻ってきた時には、売店の紙袋を抱えていた。サンドイッチの包みを取り出し、奈央子に差し出す。
 「食べられる?」
 「……ありがとう」
 ミックスサンドと緑茶のボトルを受け取り、礼を言った。お互い、5時限目まで講義がある身だ。何も食べなかったら腹の虫の我慢が保たないだろう。
 しばらく、無言で食べることに専念した。
 最後の1口をお茶と一緒に飲み込んでから、「それで」と彩乃があらためて口を開いた。
「奈央子はどう思ってるの、……その、昨日のことの理由」
 尋ねられて、奈央子はどう言うべきか、頭の中で思いつく限りの言葉を反芻した。しかし結局、最初に思ったようにしか表現できないことに気づいた。
「——わからない、けど、本気だとは思えない」




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コメント

みんなのココログ小説から来ましたhappy01
すごく面白くて一気に読んじゃいました。
更新楽しみにしています。
頑張ってくださいね!

投稿: ユカ | 2008年9月19日 (金) 11時06分

>ユカ様
コメントありがとうございました。
(返信が遅くなり申し訳ありません)

30回分以上を一気に、はかなり大変だったのではないでしょうか……それだけ時間をかけて読んでくださったこと、本当に嬉しく思います。
今後、ラストまでお付き合いいただけましたら、何よりの幸いです。頑張りますのでよろしくお願いいたします。

投稿: まつやちかこ | 2008年9月20日 (土) 20時27分

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