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【4】-11:ずっと前から

 文学部棟の裏手は、小さな広場になっている。正門以外に大学構内へ出入りする道の一つが通じていて、日中はそれなりに人の行き来がある。しかし、奈央子たちが行った時には、5時限目開始直後の微妙な時間帯のせいか、道行く人の姿はなかった。
 ——広場にいるのも一人だけだ。
 彩乃が手を振ると、柊は座っていたベンチから立ち上がり、こちらに近づいてきた。間隔が2メートルほどになったところで足を止め、奈央子を見る。
 またしても反射的に硬直し、顔を上げるのも怖いほどだったが、彩乃に半歩前へと押し出され、仕方なく「……なに?」と自分から尋ねる。
 それをきっかけに、柊が落ち着いた口調で話し始めた。
 「とりあえず、来てくれてありがとう。だまし討ちみたいな方法を使ったのは謝る。けど、どうしても聞いてほしかったから」
 あらかじめ台詞を考えていたのか、緊張しているらしいものの、言葉の出てくる調子自体はなめらかだった。
 「こないだのことも、もう一度謝らせてほしい。おまえを傷つけるつもりじゃなかった……それについては本当に悪かったと思ってる」
 だけど、と、にわかに語調が強くなる。
 「誤解されてるままだとつらいから、そのことはちゃんと訂正させてもらいたい——あの時、おまえを望月の代わりだとか、イライラのはけ口だとか、そんなことはこれっぽちも考えてなかった。他の誰でもない、奈央子だったから……だから抱きしめたいと思ったし、ああいうこともした」
 聞いているうちに、奈央子はなんだかわからない感情が、胸の奥から湧き上がってくるのを感じた。警報でも鳴らされているかのように、ひどく落ち着かない……この場にいてはいけないというような。
 このままこれ以上、話を聞き続けていられそうにない心地だった。それほどに、頭も心も不可解ななにかで一杯になっていて、苦しかった。
 その先は聞きたくない、と内心で耳を塞いだ時。
 「奈央子が好きだ」
 聞き間違えようのないほど、はっきりとした声で柊が言った。
 「やっと気づいた——望月でも他の誰でもなくて、おれはおまえが好きなんだって。自分でも最近までわかってなかったけど……たぶん、ずっと前から」
 限界だった。
 考えるよりも先に、奈央子は踵を返して駆け出した。ともかくここから、柊の前から離れたかった。




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