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【4】-13:彼女との話

 柊が立ち上がろうと思った頃にはチェックも終わったようで、企画委員の一人である3年生が休憩の指示を出した。彼女はその場にいる全員を見回し、柊に目を留める。
 「悪いけど羽村くん、買い出し行ってきてくれる? あ、一人じゃ持ちきれないだろうから誰か——」
 「私、行きます」
 3年生の呼びかけに応じた人物に、柊は驚く。
 いつの間にか来ていた、里佳だった。
 彼女とはあの日以来、サークルの集まりで顔を合わせても口はきいていない。運良くというか、しゃべらなくてはいけない機会もこれまではなかった。……しかし、柊と里佳の関係はサークル内ではほぼ暗黙の了解事項なので、何か不自然に感じた第三者が多少はいるだろうと思う。
 案の定というべきか、里佳が名乗りを上げた時、思わずといった様子で自分たちをうかがった学生が何人かいた。柊は心の中でため息をつく。
 当の3年生は気づいていないようで、ごく素直に里佳の申し出を受け入れた。それぞれの希望(飲み物やお菓子など)を集計して、リストを柊に渡す。
 とりあえず、大学生協内の売店へ向かうことにした。学生会館の方角へと、里佳と並んで歩く。
 ——彼女とも、話をしなければならなかった。
 奈央子への想いに気づいた以上、里佳とこれ以上付き合うわけにはいかない。だが、考えれば考えるほど、申し訳ないという思いばかりが湧いてきて、奈央子に対する時とは違う意味で気が重かった。
 意識してなかったにせよ……いや、意識してなかっただけに、里佳に悪いことをしてしまったと思わざるを得ない。
 二人きりの今のうちに話しておかないと、また後回しにしてしまうかも知れない——それはやはり避けたい。しかし、どう切り出したものか。
 お互い無言の状態が続くうち、目的の売店に到着した。学内の状況を反映して多くの品物が売り切れで、リストの半分ぐらいは買えなかった。どうしようかと考え、大学近辺のコンビニを回ってみることにする。
 ……先ほどから、完全に行き先のことしか口にしていない。ひょっとしたら里佳の方から話を振ってくれるかも、などと消極的に逃げている自分を、今さらながら自覚した。
 ——言わなくては。
 「……あの、さ。望月」
 学生会館近くの門から学外に出たところで、ようやく柊はそう切り出した。
 「なに?」
 聞き返した里佳の声は思ったよりも平静だった。そのことに安堵しつつ、話を始める。




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