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【4】-14:今さらだけど

 「こないだ望月に言われたこと、よく考えてみたんだけど——確かに、望月が正しかったよ」
 しばしの沈黙ののち、里佳が言った。やはり静かな口調で。
 「ふうん。やっと気づいたってこと」
 「……そうだな、今さらだけど」
 意外なことに、里佳はそれを聞いて吹き出した。
 「そうね、ほんとに今さらよ。私は付き合い始めて半年もしないうちに、なんとなく気づいてたのに」
 「え——そんな早く?」
 「うん。……でも、別れたくなかったから言わなかった。あなた自身は全然自覚してないみたいだったから、そのうち気持ちが変わるかも知れないって、多少は期待してた……私はずっと好きだったから」
 せつなげな口調に、柊はあらためて里佳に申し訳ないと思った。少し迷ったが、結局は口に出す。
 「ごめんな」
 「いいよ、謝らなくても」
 「いや。おれ本当に、なんにも気づいてなかった。自分の気持ちにも、望月にそんな思いさせてたことも……こんなに鈍感だったなんて、自分でも知らなかった」
 「だから、いいんだって。わかってたことだし、羽村くんが正直にそれを認められるようになったんなら——まあでも、ちょっとは悔しいかな」
 思わず振り向いて見た里佳の横顔には、言葉とは裏腹に、おだやかな微笑みがあった。
 「私も、羽村くんの幼なじみならよかったかな」
 コンビニの買い物かごにコーラのペットボトルを入れながら、独り言のように里佳が言う。
 「うーん、でもやっぱりダメだったかも。沢辺さんみたいな人が身近にいる限り、勝てる可能性は低いかもね」
 「ほんとに——」
 再び謝ろうとした柊を、里佳が手で制する。
 「それ以上謝ったりしないで。……ところで、沢辺さんにはまだ伝えてないの?」
 にわかに口調をあらため、里佳はそう聞いた。柊は少し考えてから、
 「一応言った。月曜に」
 「言ったの? そのわりに元気ないのね。それで、返事は」
 「聞いてない。……逃げられたから」
 柊のその言葉に、里佳は目を丸くした。
 「逃げられた、って……どうして」
「問題の日」以降のことを細かく説明する気には、さすがになれなかった。代わりにこう答える。
 「なんていうか——ちょっと、誤解されてるみたいなんだ。あいつの友達によれば」
 「沢辺さんの気持ちは知ってる?」
 「——ああ」
 奈央子に告白した日——月曜の夜、彩乃からまた連絡があった。
 柊の前から逃げ出した後の様子を大まかに説明したのち、「奈央子には悪いけど」と前置きして彩乃は打ち明けた。奈央子が、ずっと以前から柊を想い続けていることを。



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