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【4】-15:自己嫌悪と励まし

 『……だから、奈央子も本当は信じたいはずなの。でも、たぶん急展開すぎて受け入れられないんだと思う……それに、望月さんのこともやっぱり気にしてるだろうし』
 彩乃の話を聞いて、今までの腑に落ちなかった出来事に、ことごとく納得がいった。奈央子の態度の急な変化も、ああいう「勘違い」をして怒った本当の理由も——髪をいきなり短くしたのも、当然ながらその延長線上なのだろう。
 あんなによく似合っていて……好きだったのに。
 そう、奈央子の長い髪が好きだった。普段は、きちんとまとめたり束ねたりしていたが、時折後ろは垂らしていることもあって——さらさらと揺れる髪が綺麗だなと、心のどこかで思っていた。
 そんなことさえ、つい最近まで気づかなかったのだ。ましてや奈央子の気持ちなど……彩乃に言われるまで、全くそうだとわからなかった。
 つくづく、自分は救いがたい鈍感だと、柊はその時自嘲したほどだ。
 柊の返答に、里佳は心得たようにうなずいた。
 「それなら、ちゃんと誤解を解かなくちゃね。どういう内容かはわからないけど、何だったとしても、嫌いにはなってないだろうし」
 「……そう思うか?」
 「思うよ。だってまず間違いなく私よりも前から、あなたのこと好きなはずだし。そう簡単にいきなり嫌いになったりしないわよ」
 ……奈央子と会って半年強の里佳にそこまでわかるのに、どうして自分にはわからないのだろう。
 深い自己嫌悪に陥りそうになる。
 落ち込んだ表情になった柊の背中を、ハッパをかけるように里佳の手のひらが叩いた。
 「そんな顔しないで元気出してよ。——ここまで来たらうまくいってくれないと、私の決心も水の泡になっちゃうんだから」
 明るく言っているが、彼女の隠しきれない微妙な思いは感じ取れた。また謝罪の言葉が浮かんできそうになるが、里佳の心情を慮り、胸におさめた。
 「ありがとうな、望月」
 「あ、それと。サークルいきなり辞めたりしないでね。私は友達がいるから辞めないし、みんなに感づかれても気にしないようにするから……って、もともと私が誘っただけだから、羽村くんがどうするかは自由だけどね」
 確かに、特に断る理由もなかったので、里佳に誘われるままに入ったサークルだった。友人ができたとはいえ、今もさほど執着はないのだが、もしこの状況で柊だけが辞めたら、仲間うちでさらに妙な憶測が飛ぶ可能性が大きい。それぐらいの予測はできたし、そうなったら、何より里佳が気の毒である。
 自分にも辞める理由は特にないから当面はいるつもりだと口にすると、今度は里佳が「ありがとう」と言った。会話の最初と同じ、とても静かな声で。




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