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【4】-9:確信

 里佳と付き合ってきた間に、キスをしたことがないわけではない……というより、何度もしていた。
 しかしいずれの場合も、どちらかといえばその場の雰囲気で——シチュエーション的にそうしておくかと、頭で考えていた割合が大きかった。
 それが、あの時は全然違った。自分から積極的にそうしたいと、考えるよりも先に感情が体を動かした。今まで、あんなに強く心をつき動かされた覚えはなかった。
 柊の言葉を聞いて、彩乃はこちらの目をまっすぐに見つめた。柊もその視線を正面から受け止める。
 ややあって、彩乃がゆっくりと言った。
 「つまり、それって……奈央子を女の子として好きだって、気づいたってことかな」
 奈央子以外の他の女なら、きっとああいう行動は起こさなかった。そもそも、考えもしなかっただろうと思う。どうしてなのか、ずっと考えていた。
 何度考えてみても、行き着く結論はいつも同じだった——自分にとって、奈央子が特別だからだ。
 幼なじみだからとか、兄弟みたいなとか、これまで認識していた意味よりも、もっと大事な、特別な気持ちで——
 彩乃に言葉に出されて、ようやく確信した。
 「そうだと思う——いや、間違いない」
 揺るぎない柊の口調に、彩乃はうなずいた。張りつめていた空気が、少しだけゆるむ。
 「わかった。それで、これからどうするつもり?」

 ——週明け、月曜。
 4時限目の英文学講読Ⅰが始まる10分前に、奈央子は教室に到着した。3分の1ほどの学生が来ている中、向かって左側の真ん中あたりに席を確保した彩乃が、こちらに向かって手を振った。
 奈央子が隣の席に着いた途端、彩乃が尋ねた。
 「ね、4限の後って空いてるかな」
 「え……なんで?」
 「いいから。バイトとか、どっか買い物行くとか、決定済み?」
 「ううん、今日は特になんにもないけど」
 勢いに押されつつ答えると、彩乃はちょっと電話してくると言って、携帯を持って教室を出た。5分もしないうちに戻ってきた友人に、奈央子は当然の疑問をぶつけた。
 「ねえ、いったい何なの?」
 「んーと、ちょっとね。後でつきあってほしい所があって」
 彩乃らしくなく、妙に歯切れが悪かった。「どこに?」と聞いても「後で言うから」と答えようとしない。そうこうしているうちにチャイムが鳴った。



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