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【5】-1:12月

 5時限目が終わって外に出ると、もう真っ暗だ。
 12月になってから、日没の時間がさらに早くなったように感じる。実際、冬至までは今後も少しずつ早くなっていくのだろう、と奈央子は思った。
 あと2週間もすれば、年内の講義は終了し、冬期休暇期間に入る。今のところ、休暇中の課題提示はどの担当者からもされていないが、まだ油断はできない。英文学講読Ⅰの講師はレポート好きだし、2月の後期試験に代わる課題を出す講義があるとしたら、冬期休暇明け提出になる場合が多いと噂されているからだ。
 先ほどの英語音声学担当の助教授も、それらしきことを話のついでに口にしていた。もっとも、そうやって学生を脅して面白がる癖のある人物なので、信憑性がどれほどかはわからないが。
 それでもやはり気にはなる。今も並んで歩きながら、彩乃はぶつぶつと呟いていた。
 「ったくあのオヤジ、中途半端な言い方ばっかりして。結局、こっちを焦らせて自分が楽しんでるだけなんじゃないの」
 半ば本気で怒っているらしい。その気持ちは奈央子もわかるので、苦笑しながらうなずいた。
 「確かにそうかも、ってわりと本気で思っちゃうよね、あの人の言い方だと」
 「そうそう。なんだろ、欲求不満? 指輪してないし、多分独身だよね。あの性格じゃ彼女もいないんじゃないかな。ね?」
 「さあ、そこまではわからないけど」
 最寄り駅へと歩く途中、赤信号に捕まった。青になるのを待つ間、たまたま会話が途切れる。
 「……ねえ、ところでさ」
 彩乃がふいに、真面目な口調でそう切り出した。たぶんあのことだな、と条件反射で予測をする。
 「全然、連絡ないの? 羽村から」
 「——うん」
 「まだ何にも? もう2ヶ月近いじゃない」
 10月下旬のあの日から、再び柊とは話をしていない。奈央子が柊を避けがちなのは前と同じだが、今度は柊の方も、こちらに接触してこずにいる状況だった。
 大学祭には、彩乃のサークルのコンサートがあったし、初めての行事自体に興味もあったので、一応訪れてひと通りは見て回った。……柊のサークルの出店のことも覚えてはいたけど、やはり足を向けにくかった。しかしもらった割引券を無駄にしたら悪いかも、という思いもあって、遠くから柊がいないのを確認した上で、一度だけ行ってみた。



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