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【5】-4:クリスマスイブ

 土曜日、大学生協は平日よりも1時間早く営業を終える。そして今日はクリスマスイブだ。
 昨日で年内の講義期間は終了し、週明けからは生協も営業時間を短縮して29日以降は正月休みとなる。
 そういうわけで、奈央子の年内のアルバイトも、今日で最後だ。年末年始は学生も当然少なくなるので、学生バイトも基本的には入れない。今日はたまたま、普段いるパートの女性が都合で休んだため、奈央子が臨時で入ったのだった。
 閉店の片付けを終え、職員や他のパートにクリスマスと年越しの挨拶をして、建物を出る。
 外はもう薄暗いが、まだ4時半過ぎである。奈央子は帰る途中、乗り継ぎの中継駅で下車した。
 食事は家で作るつもりだったが、イブなのでケーキぐらい買おうかなと考える。駅ビルの中にある、そこそこ有名な洋菓子店の「いちごショート」が、全体にコクがありながらもしつこくない味で気に入っていた。
 店をのぞくと、やはりイブのためか数人が順番待ちをしている。並んで待つ間、奈央子はショーケースの中に見つけた「いちごショート」の直径15センチサイズを、少し迷った末に買うことにした。それほど高くなかった(1000円強だった)し、なんとなくいつもより多く食べたい気分になったのだ。
 最後の1つだったケーキを箱に入れてもらい、それを持ったまま書店といくつかの店を回る。
 自宅の最寄り駅に着いた頃には、6時を過ぎていた。改札を出た途端、凍るような冷たい風が顔に当たり、髪と服を揺らしていく。
 空を見上げると、街灯の明るさの分を差し引いてみても、星はほとんど出ていないようだった。そういえば予報で、夜は雪かも知れないと言っていた気がする。
 奈央子は早足で歩を進め、マンションにたどり着く。なんとか雪が降り出さないうちに帰れたと安心しながら、部屋に入った。
 その時、携帯がカバンの中で鳴り出した。ケーキの箱を慌ててテーブルに置き、折り畳み式の機器を開く。ディスプレイ表示を見て息を飲んだ。
 柊からだった。
 知らず固まっている間にも、呼び出し音は鳴り続けている。はっと我に返り、通話状態にした。
 「————もしもし」
 『奈央子か?』
 ずいぶん久しぶりに間近に聞く、柊の声。名前を呼びかけられてひどく安堵する自分を、奈央子は心の底から感じていた。
 一度深呼吸をして、答える。
 「……うん、わたしだけど」
 『今どこにいる? 家か?』
 「帰ってきたところだけど……」
 『ちょっと待っててもらえるか、今から行くから』
 「え?」



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