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2008年12月14日 - 2008年12月20日

『ココロの距離』第2話 - 目次 -

                    *第1話の目次はこちら

  (2)【1】-1:夏休み終盤
  (2)【1】-2:覚えのない会話
  (2)【1】-3:約2週間前
  (2)【1】-4:間近に見る従弟
  (2)【1】-5:緊張
  (2)【1】-6:「彼女になってくれる?」
  (2)【1】-7:弟も同然
  (2)【1】-8:親友とその幼なじみ
  (2)【1】-9:一目惚れみたいなもの
  
  (2)【2】-1:9月中旬、3年2組
  (2)【2】-2:部活の話
  (2)【2】-3:元マネージャー
  (2)【2】-4:憧れの従姉
  (2)【2】-5:彼女にふさわしく
  (2)【2】-6:大学の下見
  (2)【2】-7:従姉の親友
  (2)【2】-8:無表情の理由

  (2)【3】-1:オープンキャンパス当日
  (2)【3】-2:従弟の同級生
  (2)【3】-3:彼女の言い分
  (2)【3】-4:わからない気持ち
  (2)【3】-5:1月のある日
  (2)【3】-6:変化
  (2)【3】-7:嫉妬
  (2)【3】-8:不可解な様子
  (2)【3】-9:ぎこちない笑顔
  (2)【3】-10:従姉の本心 

  (2)【4】-1:同日夕方、部室
  (2)【4】-2:罪なヤツ
  (2)【4】-3:可能性
  (2)【4】-4:同日夜
  (2)【4】-5:会いたい
  (2)【4】-6:入試3日前
  (2)【4】-7:覚悟
  (2)【4】-8:後期試験4日目
  (2)【4】-9:「受かったよ」
  (2)【4】-10:2度目の告白

  (2)【5】-1:卒業式当日、部室
  (2)【5】-2:あの日のこと
  (2)【5】-3:彼女の告白
  (2)【5】-4:彼女の宣言
  (2)【5】-5:コンサート本番前
  (2)【5】-6:感情の自覚
  (2)【5】-7:スタンバイ
  (2)【5】-8:小声の話
  (2)【5】-9:花束
  (2)【5】-10:「これから?」
  (2)【5】-11:桜降る頃

    *第2話完結コメント*

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(2)【1】-1:夏休み終盤

 「それじゃ、今日の練習はここまで」
 夏休みもあと数日になった、9月初め。
 私立K大学に数ある同好会のひとつである、混声合唱サークルの全体練習が、学生会館横の小ホールで行われていた。
 「次の全体練習は試験明け、25日。それまでの間、各パートリーダーは発声と音合わせの予定を組んで、定期的なチェックを怠らないように」
 部長である3年の女子学生が話すのを聞きつつ、瀬尾彩乃(せおあやの)は考えていた。……どうやって、アルトの全員を確実に練習に来させるか、ということを。
 アルトのパートリーダーには3年生が就いているのだが、盲腸のため現在入院中だった。当人が戻ってくるのは前期試験明けと聞いているので、それまでの間は副リーダーである彩乃に、代理としてパートを管理する責任があった。
 全員が真面目に出てくるなら問題はないのだが、何かと理由とつけて数回に1回はサボるメンバーが残念ながら若干名いる。副リーダーを引き受けるだけあって、日頃の練習を重んじる彩乃にとっては、そういう部員は頭の痛い存在だった。
 部長からの通達事項が終わった後、部員全員が声のパートごとに分散し、10名前後の集まりとなる。アルト担当の12名を前にして、彩乃は試験明けまでの予定を伝えた。
 「……で、場所はいつもの公民館です。次の火曜は5時から7時、土曜が10時から12時まで。試験日程を出してもらった上での予定なので必ず来てください。特に水嶋さんと久保木さん、時間に遅れないようにお願いします」
 言いながら視線を向けると、当の二人——3年と2年の女子学生は、顔を見合わせてくすくす笑う。
 再度名指しで言うと、一応は「はーい」と返事をしたが、どうも不安である。他大学のイベントサークルにも所属している彼女たちは、ともすればそちらの活動を優先させがちなのだ。
 練習当日に二人と同じ試験の部員に、見張りを頼んでおくべきかもと考えながら、彩乃はアルト全員に解散を告げた。
 腕時計を見ると、もう少しで12時半だった。
 少し迷った後、学生会館内の売店に向かう。ミックスサンドとパックのミルクティーを買い、会館前広場のベンチで食事を済ませてから、大学図書館へと急いだ。
 図書館前に着いたのは1時5分前だったが、相手は予想通りもう来ていた。
 同じ学科で、かつ中学以来の友人、沢辺奈央子(さわべなおこ)である。

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(2)【1】-2:覚えのない会話

 「お待たせー、練習がちょっと長引いちゃって」
 「ううん、わたしもさっき来たところだし」
 とは言うが、今から5分前には到着していただろうと彩乃は思った。特に理由がない限り、10分前には必ず来るのが奈央子の昔からの習慣だからだ。
 館内に入る前に、彩乃たちは学生証を取り出す。K大の大学図書館は入館登録制で、在学生は入口に設置された機械に学生証をスキャニングさせる必要があった。
 休み明け、イコール前期試験とレポート提出期間が近いためか、館内には学生の姿が多く見られた。座席も結構埋まっていたが、目的のフロアに幸い、二人分の空きを見つけた。
 休み中はしばらく実家に帰っていた彩乃だが、9月に入ってからはこちらに戻ってきていた。サークルの練習があったし、レポートのことも気になっていたからだ。基本的には適度に真面目であるので、単位を落とす事態はなるべく避けようと思っている彩乃だった。
 今日の目的は、イギリス文学史のレポートに必要な資料を借りるか、コピーすることである。昨夜、奈央子と電話で話をした際、今日調べものに大学へ行く予定だと聞いたので、彩乃の練習が終わるのに合わせて待ち合わせた次第だった。
 奈央子とは同じ英文学科であるから、履修科目もほとんどかぶっている。加えて、中学の頃からのやはり習慣で、同じ課題に関しては相談して対処するのが、お互いの了解事項になっていた。
 レポートについての話が一段落したところで、話題が休み中の出来事に移った。奈央子も10日ほど実家に帰っていて、一度は高校時代の同級生での集まりで会ってもいる。その後は、今は彼氏でもある幼なじみと(親には内緒で)2泊ほど旅行する予定と休み前に言っていた……

 『——もし合格したら、彼女になってくれる?』

 「——ね、彩乃ってば」
 その呼びかけに、会話に関係ないことを思い出していた彩乃は我に返り、顔を上げた。向かいの席で奈央子が怪訝な顔をしている。
 「ごめん、今なんて言った?」
 聞き返した彩乃に対し、奈央子はさらに不可解そうな表情を見せた。しかし口調はあくまで普通に、
 「だからね、これ、こないだの旅行のおみやげ」
 と答え、手にした土産物屋のプリント入りの袋を彩乃に差し出す。彩乃は慌てて言った。
 「あ、パックで北海道に行ったんだよね、羽村(はむら)と。どうだった?」
 「……それ、さっきも聞いてたよ」
 「え?」
 まるで覚えがなかった。

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(2)【1】-3:約2週間前

 そんな彩乃の様子に、今度ははっきりと、奈央子は気遣わしげな表情になる。
 「どうしたの、なんかボンヤリしちゃって」
 「——そんなにボンヤリしてる?」
 「してるよー。まさか、自分でわかってないの?」
 そうではなかった。
 今日の自分が、事あるごとに物思いにふけりがちなのはわかっていた。特に、休み中のことを話題にしている時は。
 それでも、会話自体には普通に答え、聞いているつもりだったのだが……今は全然、思ったようにはできていなかったらしい。
 「……うん、わかってなかったみたい。ごめん」
 「あやまらなくてもいいけど——休みの間になんかあったの、もしかして」
 そう聞かれて彩乃は苦笑した。この親友は相変わらず察しがいい。もっとも、今に限って言えば、鈍い人以外にはわかるのかも知れないが。
 「ん、まあね……大したことじゃないんだけど」

 約2週間前——8月下旬。
 その日、彩乃は特に出かける用事もなく、朝から実家で過ごしていた。父や兄姉は仕事でおらず、昼すぎに母がパートに出かけて以降は、一人で留守番の状態だった。
 地元の友人とは数日前に集まったばかりで、また今日にわざわざ会うほどの気分でもない(ちなみに奈央子はちょうどその時期、本人が言っていた旅行中だった)。中途半端に暇な状況で、さてどうしたものかと考えている時、家の固定電話が鳴った。
 友人知人ならほとんどが携帯にかけてくるはずだし、家族に対しても同様だろう。一体誰だろうかと思いながら1階に降り、電話に出ると、
 『もしもし——彩姉?』
 思いがけない人物の声がした。
 「え、宏基(ひろき)?」
 驚いて思わず尋ねたが、聞くまでもなかった。自分を彩姉と呼ぶのは、知る限り一人しかいない。
 「なに、どうしたのいきなり」
 『えーと、ちょっと相談したいことがあるんだけど——今からそっちに行っていい?』
 口調になんとなく歯切れの悪さを感じて、彩乃は少しだけ不審に思った。だが来訪を断るほどの理由はなかったので、「別にいいよ」と返す。
 「けど、何の用事?」
 『……うん、行ったら話すから。じゃあ後で』
 宏基が早口でそう言った直後、ぷつりと通話は切れた。変なヤツ、とは思ったものの、彩乃はそれ以上深く考えたりしなかった。
 御園(みその)宏基は、母方の従弟である。
 彩乃より2歳年下で、姉妹であるお互いの母親の仲が良く、家もさほど離れていないため、小学生ぐらいまでは割合よく会う機会があった。

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