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第4章・4

 暗く重い、それでいて激しいエネルギーをあふれさせる塊が、胸の底に沈んでいく。悔しさなのか、腹立たしさか……あるいは、マイナスの感情全部が入り交じったものなのか。それが、じわじわとわたしを侵食し始めているのが今、はっきりと感じられた。
 「……そうだね、それに、わたしが口出しすることじゃなかった」
 「まあちゃん?」
 「いいよもう。茉莉ちゃんの思うようにすれば」
 自分の予想以上に平坦な、抑揚のない声が出た。感情を抑えるためにそうなったのではなく、今現在の感情そのままの声だった。
 おやすみ、と言いながら立ち上がり、隣の自分の部屋へ戻る。ずっと視線を落としていたから、茉莉ちゃんがどんな表情をしていたかはわからない。けれど部屋を出るまで、視線を向けられていることは強く意識していた。

 数日後。
 「そっか、やっぱりね」
 わたしの話を聞いても、先生はたいしてショックを受けていないようだった。少なくとも表面上は。きっと、あの日から今日会う直前まで、その予想を何度もしていたに違いない。
 「ごめんなさい、大きなこと言っといてわたし、何にも役に立てなくて」
 「いや、理子ちゃんがそんな顔しなくていいよ。これは僕らの問題なんだから」
 先生はなぐさめで言ったつもりだろう。けれど、わたしにとっては突き刺さる台詞だったーーわたしにはしょせん関係ない、わたしがどうにかできることではない、そう宣言されたような気がして。
 過剰に反応しすぎだと理性は告げている。けれど感情は、いったん傾くとそちらへどんどん引きずられて、すでに戻りようがなくなっていた。
 ……限界が近づいている。
 それに耐えられるだけの力がわたしにはもう残っていないことも、感じざるを得なかった。
 先生が好きなのはわたしじゃない。
 それがわかっていても、自分でももてあます時があっても、気持ちは消えてくれなかった。
 どれだけ目をそらしても、目を閉じて見ないようにしても、必ずそこに……わたしの最も近いところにある想い。何年経とうと変わらず存在していて、忘れることも、消すこともできない。
 先に出会って、先に好きになったのはわたしなのにーーわたしなら絶対、迷ったりしないのに。
 4年の間言いたくて言えずにきた言葉と、今すぐにでも口にしたくてたまらない言葉。
 食事をしながらも、頭の中は絶えず、同じ思いに占められていた。結果的に自分からはほとんどしゃべらなかったわたしを、先生は気遣うように見ていた。
 「ごめんね、余計なこと頼んじゃったよね。迷惑かけちゃって……」
 帰り道を送ってくれる最中も、本当に申し訳なさそうな声と顔で、何度もそう言う。それを聞くのも見るのも、辛くてしかたなかった。
 余計だとか迷惑だとか、そんなふうには爪の先ほども思わない。ただ、先生の役に立てなかったことが悲しくて、茉莉ちゃんの態度が腹立たしくて……自分の無力さが悔しいだけ。

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