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2009年7月12日 - 2009年7月18日

第1章・2

 茉莉ちゃんがすごいのは、誰が見ても確かだ。
 小学生の頃からずっと一番の成績で、塾も家庭教師も必要とせず、難関国立の法学部に現役で合格した。途中で1年、イギリスへ留学するために休学しながら、卒業前に司法試験に合格した。最終的には司法関係の進路は選ばず秘書になったけど、留学を終えて帰国した後、英語とフランス語の通訳の資格も取得している。
 それだけ優秀でも、一度だって自慢げに振舞ったことはなくて。おまけに、大学のミスコンで2年連続優勝するぐらいの美人で……どうしたって、わたしが敵う相手じゃない。
 嫌いなのではない。
 むしろ、好きだし、いい姉だとも思っている。
 いつだって茉莉ちゃんは人の注目の中心だった。それでいて、わたしに対しては、家族の誰よりも気を遣って接してくれていた。——だからこそ時折、突き放して考えることが難しくなる。
 亜紀が時々複雑な表情をするのは、わたしのそういった、微妙な想いを感じ取っているからだろう。
 ……そうだと気づかされるのは、少しつらい。

 5月最初の土曜日は、4連休の初日。今年のゴールデンウィークの海外渡航者は過去最多とニュースでは言っていたけど、とてもそうは思えないほど、市街地は人が多かった。
 このあたりで一番大きい映画館もものすごく混んでいて(昨日から洋画の超話題作が公開されているせいもあっただろう)、上映1回分は待たされる羽目になった。おまけに目当ての映画はあまり面白いと思えなくて、一緒に観た子とお茶しながら気が済むまでこきおろし、別れてきたところである。
 駅へ向かう道を歩いてはいるけど、まだ帰りたい気分ではなかった。どうせ家には誰もいない。両親は旅行に出かけているし、茉莉ちゃんは……
 その時、大通りの先の信号を渡る人が目に留まった。知った顔だったのだ。
 人混みを大急ぎで走り抜け、声が届きそうな距離まで追いついたところで、その人を呼ぶ。
 「祐太(ゆうた)先生!」

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