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2009年8月23日 - 2009年8月29日

第2章・2

 実際、茉莉ちゃんの意見はたいていの場合正論だから、うなずかざるを得ない。けれど多くの人が、言われても不満は持たないだろう。それどころか、自分の主張を変えて本心から同意するようになる。
 ……そういう、外見だけでなく中身も稀有な人。
 「それはそうだけど——うん、サボるってのは言いすぎだけど。4月から全然会ってないんでしょ? いくら連絡はまめにしてても、たまにはちゃんと顔合わせなくちゃ。そりゃ、付き合い長いお二人さんにはそれで充分なのかも知れないけど? でも会わないとわからないこともあるって、茉莉ちゃん自分で言ったじゃない」
 後半は、我ながらかなり皮肉っぽい調子になっていたように思う。が、茉莉ちゃんの方は特に気にする様子もなく、かすかな笑みを浮かべた。
 「そうね」
 と、手にしたコップから水をひと口飲んで、
 「まあちゃんの言うことはもっともだわ」
 納得を深めるように、一度強くうなずく。
 そうして、再びわたしに向けた微笑みは、身内でも一瞬見とれずにはいられないほどにきれいで——天使や聖母と表現されても、きっと誰も大げさとは思わない。
 「明日、久しぶりに会えるかどうか聞いてみるわ。心配かけてごめんね、まあちゃん。おやすみ」
 早く寝なさいよと言いながら、茉莉ちゃんはコップを片付けて台所を出ていく。実は台所に用事があったわけではなくて、足音が聞こえたから下りてきただけだったけど、そのままそこに留まっていた。……隣同士の2階の部屋まで、茉莉ちゃんと一緒に行くのが嫌で。

 時々、姉の落ち着きぶりにはひどくイライラさせられる。憎らしく感じる時もある。慌てたり取り乱したりと、姉が動揺したところを、わたしは一度も目にしたことがなかった。
 感じていたとしても、絶対に、表には出さない。困っている時でさえ、傍から見ればいつもと変わらない顔で、どうするべきか落ち着いて考える。
 憧れるには身近すぎて、完璧すぎる人だった。
 だから普段は突き放して考え、姉らしい優しさを見せる茉莉ちゃんだけを見て、受け入れていこうと思った——何年もそうしてきた。にもかかわらず、いまだに、気持ちをコントロールしづらくなる時がある。口に出さずにいる、目をそらしている感情が抑えきれなくなって、心と頭を一杯にしてしまう。
 物心つく頃にはもう、茉莉ちゃんと比較されることが日常だった。だからと言って、平気でいられるほど鈍感になれるわけではないのだ。
 一生懸命やってもそうと認めてもらえない悔しさは、慣れてしまっても、なくなりはしない気持ちだから。

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