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2009年10月18日 - 2009年10月24日

第3章・2

 どんな口実であれ、先生に会えることは嬉しい。
 ……けれど、もし予想が当たっていたら、二人で会うのはいよいよ止めにする頃合いなのかも、とも思う。
 結婚後も同じようにしていたら、いつかは不自然さがどうしようもない歪みに変わってしまうかも知れない——わたしだって、進んで人を傷つけたいわけじゃないのだ。
 でもそれはまだしばらく先のこと。今は、先生のメールにOKの返信をする時。
 そんなわけで先生に会いに行ったのは、その日の夜。先生の会社の近くにある、居酒屋を兼ねた定食屋さんだった。
 「ごめんね、急に。おまけにこんな所までわざわざ来てもらっちゃって」
 「ううん、今日はバイトなかったし、ちょうどおなかも空いてるから。ここって何がおすすめ?」
 「たいていどれでもおいしいと思うよ。店の今日のおすすめがあそこに書いてあるけど」
 というわけで、わたしはその中から「スペシャルメニュー」のチーズハンバーグ定食を、先生は塩さば定食を頼んだ。メニューの差もだけど(5百円以上違った)、注文する時の、いや会った最初から、先生が妙に元気なさげなのが気にかかった。
 たぶん今日の話の内容に関係あるんじゃないかと思って、何度も「ところで話ってなに?」と尋ねたのに、先生は「それは後にして、とりあえず食べよう」と言うばかりで話そうとしてくれない。
 10分ほどでそれぞれの注文が運ばれてきた。しょうがないから食べ始めたけど、やっぱり気になってしまうから集中できない。先生が一見普通に、でもなんだか心ここにあらずな感じで箸を進めているのを見ていると、なおさら味わえなかった。おすすめメニューだけあっておいしいのは確かだったのに。
 だからこの際、正直に言おうと思った。
 「ねえ、先生」と呼びかけると、声の調子がさっきまでと違うことに気づいたのか、先生はちょっと目を丸くしてこちらを見た。
 「あのね、食べながらでもわたしはいいから、話を早く聞かせてほしいな。気になっちゃって、せっかくのスペシャルメニューがおいしくないんだもん」
 軽い調子を混ぜて、でも真面目には聞こえるように言うと、先生の表情はひどく苦々しいものになった。びっくりするほど急な変化だった。

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