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2009年11月29日 - 2009年12月5日

第4章・1

 最初こそ負けたものの、当然ながら両親にあきらめるつもりはなかったようだ。その後1ヶ月ほどの間に、わたしが知るだけでも3回、お見合いの話題が持ち出された。
 一度などは、休日の朝にいきなり「今日2時から成田さんと約束があるからね」と宣言した。成田さんとは、その数日前に断ったはずの見合い話を持ってきた遠縁の人で、茉莉ちゃんがどう言っても誰にも会おうとしないため、強攻策に出たらしかった。
 この時ばかりは困った表情を垣間見せた茉莉ちゃんを、両親はついに見合いの場所へ引っぱり出すことに成功した。とはいえ、暗くなる前に帰ってきたし、次の日早々に、茉莉ちゃん本人が謝りと断りの連絡を入れたと聞いている。
 両親が、この機会を逃すものかと今まで以上に気合いを入れているのは明らかだ。力技で押し続ければ、いずれは陥落するに違いないと考えている。
 茉莉ちゃんが見た目に反した頑固者であるのは、よく知っている。それでも、日々見合い写真に目を通し、仲介者に連絡を取る両親の姿を見ていると、今度ばかりは茉莉ちゃんと言えど回避しきれないのではないか、という懸念も感じる。現に一度はそうなりかけたのだから。
 祐太先生に1ヶ月前と同じく呼び出されたのは、そんな懸念がかなり強まっていた頃だった。
 「——え、言ったの?」
 聞かされた内容に少なからず、いやかなりびっくりして、しばらくぽかんとしてしまった。
 つい昨日、茉莉ちゃんに「一緒に来てほしい」と言ったというのだから——正確には『一緒に来てくれたら嬉しい』だったらしいけど、それでも驚きに変わりはない。ほんのこの間、権利がないなんて気弱なことを口にしていた先生が、このタイミングで言うとは思わなかったから。
 相当の勇気を出したことは間違いなかった。けれど、今の先生は意気消沈して見える。
 「それで、茉莉ちゃんはなんて?」
 どういう流れになったのか想像はついたけれど、一応尋ねる。案の定、先生はため息を抑えるように息を深く吸って、それから答えた。
 「しばらく考えさせて、って。……けど、そう言うまでにだいぶ迷ってたから、ちょっと無理かも知れないな、やっぱり」
 いかにも無理矢理作ったという感じの笑顔は、とても辛そうだ。フォローしてあげたかったけれど、ふさわしい言葉を見つけられなかった。

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