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第6章・2

 とっくにわかっていたことをもう一度、これ以上ないほどはっきりした形で突きつけられて、そのことにあんなにショックを受けるなんて。
 ずっと大きな勘違いをしていたのだとあの時まで気づけなかった、その事実が。
 わたしと先生は同じだと思っていた。
 茉莉ちゃんという完璧な存在に憧れながら、身近にいすぎるせいで苦しんでいる、いわば同志だと。
 ……それは、ある意味では正しいけれど、全面的に正解ではなかったのだ。
 わたしと先生では最初から立場が違う。どんなに似た感情を抱えているとしても、同じ位置にいるわけではない。
 いられるはずがなかったのに、勘違いをした。
 そのしっぺ返しは、ある意味で予想通りだったけれど、予想以上に大きなショックでもあった。
 でもそれは相応の罰なのだろう。自分勝手な衝動——茉莉ちゃんに対する妬みと苛立ちに、大事な人を巻き込んだことに対しての。
 だから、わたしは償いをしなければならない。
 あの日曜の翌日、帰ってきた茉莉ちゃんの口からクリスマスには会わないと聞いてすぐ、実行に移した。転勤の話が出て以来数えるほどしか会っていない二人がいまだ結論を出していないこと、というよりも先延ばしにしているだけなのを、とっくに気づいてもいた。少なくとも茉莉ちゃんはそうだった。意外だけれど、クリスマスさえ仕事を口実に会わないでいるなんて、いよいよそうとしか思えない。
 『じゃあ、いつでもいいから近々わたしに付き合ってくれない? 会わせたい人がいるから』
 と言うと、茉莉ちゃんは目を丸くした。それからにっこり笑って『彼氏?』と尋ねた。
 ——本当は何か気づくことがあったのではないかと、その時思った。
 茉莉ちゃんは性善説を体現しているような人だけれど、決して鈍いわけではない。会う回数が限られていても、先生がずっと不自然でなくいられたとは思えないし、そこに気づかずにいたとも思えない。
 そうだとしても、絶対に、口には出しはしないだろう。今。この時でも完璧な、妹思いの姉としての微笑みを浮かべている茉莉ちゃんだから。
 そして、わたしも一生打ち明けるつもりはない。茉莉ちゃんに面と向かって聞かれたとしても。わたしから知っているのかと聞くのは自分が楽になるための手段でしかないし、もし本当に気づいていないのなら、わざわざ悩ませるのも本意ではないから。
 わたしにできることはただひとつ。茉莉ちゃんと先生のこれからを見届けること。
 別れてほしいとは思っていない。だから、ちゃんと二人で話をしてほしかった。わたしとの約束であれば茉莉ちゃんはきっと来るはず。そこに、先生を呼び出せばいい。

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