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第5章・4

 クリスマス直前の日曜、その日も先生と会う約束をしていた。茉莉ちゃんが上司の出張に同行して、週末はいないことを知っていたから。
 当日はさすがに二人で会うだろうけど、それより先に、わたしが一緒にクリスマスを過ごせるのだと思うと、みっともないぐらい心が浮き足立った。
 昼間から会うことも初めてだったから、勢いで、普段は適当な化粧を念入りにした。服も、持っている中で一番大人っぽいものを選んでみた。大学の帰りに会うのがほとんどで、カジュアルな服装しか先生に見せたことがないから、ちょっとびっくりさせたかったのだ。
 そうして、今までになく気合いを入れて装ってみた鏡の中のわたしは、自分で言うのも何だけど、普段の5割増しは綺麗に見えた。努力の結果に満足して、笑みがこみ上げてくる。
 今のわたしなら茉莉ちゃんにも引けを取らない、そんな自信まで持てそうなほどだ。
 意気揚々と、わたしは家を飛び出した。「行ってきまーす」と言った時に両親が妙な目をして見ていたけど、気にならなかった。
 いつもの待ち合わせ場所、ターミナルの駅前広場は、いつも以上に人口密度が高い。誰かを待つ人や行き交う人の波の中、自分の約束の相手がどこにいるのか探すのは少々骨が折れる。しばらく見回してようやく、斜め左方向にあるベンチの横に立つ先生を見つけた。
 わたしの呼びかけに振り向いた先生は、こちらを見るなり、目を大きく見開いた。近づいてからもなお、まじまじとわたしの顔を見ている。
 「……顔に何かついてる?」
 「え、……いや違うよ、ちょっとびっくりして。綺麗で、見違えた」
 夢から覚め切っていないような、少しぼんやりした口調で言われた言葉に、わたしは舞い上がった。先生にそう言ってもらえただけで、今日の自分が誰よりも美人でいる、そんな気分になれる。
 「ほんとに? ありがとう。祐太さん」
 とびきりの笑顔でそう言うと、先生はまた目を見張った。けれど今度はすぐに、同じように笑いながらうなずいてくれた。
 特別な季節だから、今日ぐらいは「先生」でなく名前で呼んでみたい。先生——祐太さんもきっと、それを望んでいるに違いないから。そう思った。
 その日の祐太さんがいつになく機嫌が良くて楽しそうだったのを、わたしはずっと後まで忘れられないことになる。

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