« 第5章・4 | トップページ | 第5章・6 »

第5章・5

 駅からほど近いシネマコンプレックスは、外まで列が延びるほどに混んでいた。多くはたぶん、一昨日から公開の映画を目当てに来た人たちだろう。
 確実に混んでいるとわかっていて、それを観に行くことを選んだ。人が多い方が、二人でいても逆に目立たないと思ったから。
 けれど、気にする必要はなかったかも知れない。そう思うぐらいに、誰も周りを気にしていないように見えた。列に並ぶ人々のほとんどは、見るからにカップルらしい二人連れ。当然と言えば当然で、ベストセラーになった恋愛小説原作の映画を今日観に来るのは、十中八九、恋人同士に違いないだろう。
 ……その日は、本当に付き合っているのだと錯覚するぐらいに楽しかった。人混みがすごいのをいいことに腕を組んでも、しがみついて顔をすり寄せても、祐太さんは一度も苦い表情や辛そうな目を見せなかった。それどころか、客席の階段を下りる時には、自分から手をつないでくれさえした。
 後から考えれば、全てのことをもっと変だと思うべきだったのだ。何の理由もなく祐太さんが、そんなふうに振舞えるわけがなかったのだから。けれどその時のわたしは、ただ嬉しくて楽しくて、冷静に考えるための落ち着きを、家に置き忘れてきたかのようにはしゃいでいた。
 映画を観て、食事をして、腕を組んで街を歩く。そんな恋人同士の普通のデートを、祐太さんを相手に何度も、繰り返し夢見てきた。真実でないとわかっていてそれでも、かりそめの幸せに溺れていた。
 ……でも、夢はいつかは覚める。だからこそ、夢見ているうちが幸せなのだ。
 それを思い知らされたのは、他ならぬ祐太さんによって。5時間ちょっとで夢は覚めた。

 クリスマスが近いから今日プレゼント買おうか、と言われた瞬間のわたしは、間違いなく世界で一番幸せだったと思う。本当に、みっともないほどに浮かれて、嬉しさが抑えられなかった。
 「何がいい?」
 「え、どうしよう」
 と、少しの間迷うそぶりをしてみたけど、本当はなんでもよかった。だから結局は素直に「祐太さんが選んでくれたものでいい」と答え——ようとした時、ある店が目に入った。
 確か今年の春、日本に初出店したアメリカのジュエリーショップで、ひと頃はしょっちゅうニュースで取り上げられていた。高いものはかなりの値段だけど、数万円単位の商品もあるんじゃないかと思う。ちょっと前に大学の友達が、彼氏にもらったと話していたはずだから。

|

« 第5章・4 | トップページ | 第5章・6 »

小説 -『まぶたの裏にある想い』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 第5章・4 | トップページ | 第5章・6 »