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第5章・3

 「理子(まさこ)、最近誰と会ってるの?」と亜紀に聞かれたのは、本当に唐突だった。
 ずいぶん寒くなった、12月のある日。
 この1ヶ月と少しの間、何度か、講義が終わった後の亜紀の誘いを「寄る所があるから」と断ってはいた。
 けれど、それまで一言も、誰かに会うというようなことは言っていない。……祐太先生に関することだから、亜紀だから何か察するものがあった、と言えるかも知れない。
 「何いきなり。なんの話?」
 とりあえず、とぼけてはみたけれど、亜紀の真剣な表情は変わらない。怖くなるような目つきでわたしを見ている。
 「真面目に聞いてるの。寄る所があるって言う時、変にそわそわしてるじゃない。——人と会う約束があるからなんでしょ。女友達じゃないわよね。だったらそう言うはずだもの」
 亜紀の視線の強さに追い詰められた気分を覚えながらも、わたしはなんとか目をそらさずにいた。感づかれているのだとしても、自分から白状するような真似は避けたい。
 「……『先生』なんでしょ、相手」
 その重い声音で、今までのような気軽な会い方だとは思っていないとすぐわかった。やっぱり、このことに関しては彼女は鋭い。
 だからと言って、自分から認めはしないけれど。
 ——認められるわけがないけれど。
 「違うよ、全然」と言ったけど、当然、亜紀はかけらも信じていない顔だった。
 「茉莉絵さんと別れたわけじゃないんでしょう? 何してるの、あんたも『先生』も」
 「………だから、違うって」
 「ねえ理子」と、その声は一転して優しく、同時にひどく辛そうにわたしの耳に響く。
 「気持ちは、わからないでもないけど——でも、そんなことして一番傷つくのは、結局自分なんだよ。わかってるの」
 苦いとわかっているものをあらためて、無理やり飲み込まされた気分になる。
 結果的に肯定になるとわかっていても、ため息をつくことでしか答えを返しようがなかった。

 言われるまでもなく、最初からわかっている。
 長続きするはずがないことも、——関係をすっぱり断ち切ったとしても、今さら以前のようにはもう戻れないことも。
 それでもいいと、わたし自身は覚悟して言った。だから今でも、その意味で後悔はしていない。
 けれど先生はきっと……いや確実に違う。
 初めのうちこそ、わたしに引きずられての高揚感もあっただろうけど、性格からして後悔せずにいられるわけがないのだ。実際、後ろめたさや罪悪感を絶えず抱えているのを、会うたびに、そして日にちが経てば経つほど察しないわけにはいかなかった。
 それでも、会ってくれるうちは会い続けたかった——自分から終わらせたくはなかった。

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