« 第5章・6 | トップページ | 第6章・2 »

第6章・1

 後期試験が近づいてきた1月中旬、携帯に亜紀からのメールが届いた。
 先生とのことを看破されたあの日以来、大学で顔は合わせていたし話も普通にしていたけれど、気まずさやぎこちなさはどうしても付きまとっていた。だから大学の外でのやり取り、たとえばメールなどは、かなり減ってしまっていたのだ。1通も送受信しない日も結構あった。
 亜紀から送ってくるのは3日、いや4日ぶりだろうか。試験期間前に提出するレポートの進み具合はどうか、という内容だった。
 期限まで1週間ちょっとしかないのだけれど、まだ資料探しすらしていない。……年末からこちら、そうする気分の余裕はなかったから。
 携帯の画面を見つめて、気づけば30分近く考え込んでいた。意を決して返信を打つと、さらに15分ほど経ってから、また亜紀から届く。
 『わかった。あたしもまだ全然やってないし。明日の午前中でいける?』
 OKだと再返信して、携帯を閉じる。
 もしレポートできていないなら大学図書館で資料を探そう、と最初に返信したのである。
 そうやって何かを一緒に、というのは実に1月半ぶりだった。あれ以来、大学では普通にふるまうようにしていたけれど、講義の後や休みにどこかへ行こう、といった話はお互い口にしなくなっていた。
 亜紀がそうだったのは、どうせ断られると思ってか、わたしへの反感のためか。両方かも知れない。そしてわたしの理由は言うまでもない。
 だから、久々に約束して会うことに不安はあったものの、断られなかったことに安心する気持ちも大きかった。原因が原因とはいえ、やはり亜紀とこのまま、ぎこちない間柄になってしまうのは避けたかったから。
 ……だからといって、自分から歩み寄る勇気も、情けないけれどこれまで出せずにいた。今やっと、修復するための段取りをつけることができたのだ。
 亜紀には、ちゃんと釈明をしなくちゃいけない。あれきり何も、先生とのことについては言及してこなかったけれど、どういう思いを持っていたとしても、心配もしていたはずだから。
 翌日の空は、わたしの心の中を表すように曇っていた。たまに晴れ間がのぞく程度で、雲の灰色は少し重い。
 会って最初の1時間ほどは所期の目的、資料探しに二人とも集中した。時期が時期だけに、検索して目ぼしいものを見つけても貸出中のパターンが多かったのだ。
 なんとか、引用とまぜこぜで規定枚数を書けるかなと目途がついたあたりで、ひと休みついでに図書館内のカフェに入った。
 土曜の午前中だから、ガラガラではないものの、店内は結構空いている。両隣が空いているテーブルを、お互い相談なしに自然に選んでいた。
 注文して、店員さんが離れていってすぐ、わたしは息を吸い込んで言った。ただし声は小さめで。
 「——ごめんね」
 テーブルに視線を落としていた亜紀が、目を上げてこちらを見る。話の続きを促すように無言で。
 「ちゃんと、正直に言えなくて……先生とのこと。心配してくれたのにごまかすみたいなこと言って」
 目をそらさずに言うと、しばらく見返してから、亜紀は小さく息をついた。
 「それで? 今はどうなの」
 責めたり追及したりする強い調子ではない、あくまでも静かな声。わたしは一度、自分で確認するようにうなずいてから、
 「うん、……もうやめた。会ってない」
 はっきりと口にすると、しばしの無言の後、亜紀も「そう」とうなずいた。
 「踏ん切りついた、ってことかな」
 「そうだね。……そうするしかないって、よくわかったから。今さらだけど」
 本当に、今さらすぎて自分でも呆れるぐらいだ。

|

« 第5章・6 | トップページ | 第6章・2 »

小説 -『まぶたの裏にある想い』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 第5章・6 | トップページ | 第6章・2 »