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『桜、夕立ち、若葉の頃』(11)

 親友が感極まってしまう気持ちはとてもよくわかる。彩乃にとっても、奈央子と柊がようやく結婚に踏み切る気になった事実は、二人が付き合い始めた時以上に感慨深く思える出来事だから。
 ずいぶん長くかかったけど、親友が気持ちを変えずにいたことは結果的によかったのだと、今は疑いなく思える。彼女の辛抱強さが実を結んだのだ。
 再び沈黙し、自分を落ち着かせるように深呼吸をしてから、奈央子は今後の予定を教えてくれた。次の休みにお互いの実家へ挨拶に行き、それから籍を入れて同居するつもりだという。
 「で、結婚式はどうするの」
 『うん……わたしと柊はしないつもりでいるんだけどね。今から式場とか探すんじゃ、ちょっと時期が悪いし』
 奈央子がそう言うのは、現在妊娠3ヶ月だからだろう。確かに、普通だと式場の確保その他の準備で半年ぐらいかかるから、式を挙げる頃には臨月かその直前になってしまう。だが。
 「けど、それじゃご両親が納得しないんじゃない? なんたって一人娘なんだし」
 『うん、そうかも……どう言ったらいいと思う?』
 「ごめん、あたしには答えられない」
 『え、なんで』
 「だって見たいと思うもん、奈央子の花嫁姿」
 3度目の沈黙は、今日で一番長いものだった。
 『————やだな、からかわないでよ彩乃』
 「からかってないよ、ほんとに見たいんだってば。絶対ウエディングドレス似合うと思うし、奈央子が着ないなんてもったいなさすぎるよ。ほんとにそう思う」
 『……ありがと。でも、期待には応えられないかもしれないよ?』
 他の話題も織り交ぜつつの通話を切った頃には、1時間近くが経っていた。メールは頻繁にしていたのだが、リアルタイムで話すとやはり違うらしい。
 静かな自室で、あらためて奈央子の報告を思い起こすと、じわじわと胸に迫るものがある。
 二人と出会ってから12年。その間の出来事が、自分自身のことも含めて、いろいろ浮かんでくる。
 騒がしい中学の日々、もどかしかった高校の頃、波瀾万丈だったと言える大学時代、そして今日までの——
 はっと気づくと、頬に涙が流れていた。拭いながら、今度は自然と笑みがこぼれてくる。
 本当に、心の底からよかったと思う。家族を除けばたぶん、二人に幸せになってほしいと一番願っていたのは自分だと言えるぐらいに、ずっと気にかけてきたから。
 その二人が結婚式を挙げないというのは、事情があるのはわかるが、やはり釈然としない。特に本人にも言ったように、奈央子がウエディングドレスを着る機会がないなんてもったいないにも程がある。
 どこか、来月にでも予約を取れる式場や教会がないか調べてみようか、と考えかけて思い出した。柊の姉、公美(くみ)のことを。
 中学と高校の頃に一度ずつ会う機会のあった公美は、奈央子に見せてもらった写真以上に綺麗で、そしていろんな意味で力強い人だった。今は、かねてからの目標通り弁護士になり、日々忙しくしているらしい。
 会った時、彩乃はほとんど言葉を交わさなかったけど、公美が奈央子を可愛がっていることはよくわかった。今でもそうなのだろうから、彩乃以上に、奈央子にドレスを着せたいと思うに違いない。
 ……となればきっと、公美はどうにかして、二人の式の手配をするはずだ。それが可能だと思わせる雰囲気、行動力のオーラが彼女にはあった。彩乃が心配する必要は何もないだろう。
 ただし、家族にはずっと交際を隠していると言っていたから、実家に挨拶に行った時には一悶着あるかもしれない。それを想像すると、さっきとは違う意味での笑いがこみ上げてきた。
 状況的に式に呼ばれない可能性があるのは残念だけど、その分、仲間うちでのお祝いは気合いを入れて計画しておこう。中学高校で文化祭実行委員や生徒会役員をやっていた友達、その何人かとは今も連絡を取り合っているから、彼女たちにも協力してもらって。
 まずは、結婚式の写真を見せてもらうのが楽しみだなと思いながら、彩乃は早くも二人を祝う催しの構想を練り始めていた。


                             —終—

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