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『桜、夕立ち、若葉の頃』(2)

 はっとした表情で奈央子が振り向く。口を挟めずにただぽかんとしていた彩乃に、一転して慌てた様子で釈明した。
 「ごめんね、びっくりしたでしょ。こいつ周りちゃんと見てないから」
 「……ううん、別に、大丈夫だったし」
 なんだか要領を得ていない言い方になっているのはわかっていたが、すぐには落ち着きを取り戻せそうになかった。それぐらい、目の前の二人のやり取りが意外だったのだ。
 同じ行動班とはいえ、知り合って日の浅い奈央子とは通りいっぺんの会話しかしたことがない。知る限りの彼女はいつも、暗くはないが落ち着いた言動の優等生であった。今みたいな、聞きようによってはきつい物言いは誰に対しても、おそらくは小学校の友人と思われる相手にも、してはいなかった。
 そして羽村柊はといえば、クラスで一番背が高く顔立ちもそこそこ整っていて、男子の中では少々目立つ存在だった。反面、誰よりも小学生っぽさが抜けきらない感じの、不思議な印象の持ち主である。
 この二人が、今みたいな口をきき合っているところは見たことがなかった。もちろん、彼らの行動を四六時中追っていたりはしていないが、これほど気の置けない間柄であるとは予想外で、だからこんなふうに聞きたくなったのだ。
 「ひょっとして、付き合ってるの?」
 奈央子は彩乃から見ても可愛いし背も高い方だから、並んでいるとお似合いだとは思う。驚きが去らない口調でおずおずと尋ねると、二人はそろって目を見開いて絶句してから、
 「まさか。ただの幼なじみ」
 同じく、見事なほど声をそろえて言った。その、あまりの息の合い方にまたぽかんとしていると、
 「なあ、なんか困ってんじゃん瀬尾さん。おまえがごちゃごちゃ言うからじゃねーの」
 「誰のせいだと思ってんの」
 そして、耳を引っ張り悲鳴が上がる一連が繰り返される。思わず吹き出してしまった。
 「ほら、笑われてるじゃないの。まったく」
 と奈央子ににらみつけられて、柊は長い体を縮めてあからさまにしゅんとした表情。その様子は確かに、付き合っているというよりは、姉弟に近いものがあった。面白い二人だと思い、同時に、ちょっと安心する。
 「もういい、ともかく帰ろ。……ほんとごめんね、瀬尾さん。うるさくしちゃって。じゃあまた明日」
 「あっ、ちょっと待って」

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