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『桜、夕立ち、若葉の頃』(3)

 反射的に発した呼びかけに、二人が同時に振り向く。まともに見つめられてやけにどぎまぎしたが、言いたいことは言えた。
 「ね、一緒に帰っていい?」
 「え、いいけど。家どのへん? Y町? じゃあ、途中まで一緒だね」
 というわけで、一人で帰るはずだった道を、思いがけない相手と連れ立って帰ることになった。奈央子を真ん中に左側に自分、右側に柊という位置で。
 彩乃が会話の輪の外にならないよう、奈央子はまめに気を遣ってくれた。とはいえ、幼なじみ二人の話が中心になるのはいたしかたないことで、けれど彩乃は決して、それが退屈でも不満でもなかった。
 さっきと同じように、二人のやり取りを聞くのは面白かったし、実を言うと、奈央子の頭越しに柊の表情を見られるのも楽しかった。
 入学式の日に初めて見て以来、彼はちょっと気になる存在だった。だから少し緊張もするが、奈央子がクッション役になってくれているから、今の距離感は近すぎず遠すぎずでちょうどよかった。
 実際には末っ子ながら、性格面では長女タイプの彩乃は、年の離れた兄姉よりもしっかりしていると言われたことも一度や二度ではない。そんな彩乃から見ると周りの男子はいかにも子供っぽくて、2つ年下の従弟と変わらないなと感じてしまう。
 けれど羽村柊に関しては、ちょっと違う。言動が子供っぽいと思う時が多いのは同じなのに、なんというのか……そういう行動を見たり言葉を聞いたりしても、他の男子に対するようにあきれた気持ちにはならない。
 どうしてかはわからないが、逆に、もっと見ていたいし聞いていたいと思うのだった。休みなく変わる彼の表情や、無邪気きわまりない明るい声を。
 心地よくわくわくする時間は、Y町との分岐点よりずっと手前の交差点で、唐突に終わった。「あ、こっからは一人で帰れるから。じゃな」という一声で、柊が走り去ってしまったからである。
 はいはい、と慣れた様子で奈央子が手を振っている。交差点を渡る手前で立ち止まったまま。彼の背中が角を曲がって見えなくなると、ふうとため息をついた。
 「家、近所じゃなかった?」
 さっきの会話の中で、同じ町内だと言っていたはずだ。だからこんな、中途半端な場所で別れるのを意外に思った。「うん、そう」と肯定してから、奈央子は苦笑いを浮かべる。
 「けど、わたしと一緒に帰ったのがバレたら格好悪いんだって。お母さんとかお姉さんにいろいろ言われるから」

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