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『桜、夕立ち、若葉の頃』(4)

 「へぇ、お姉さんいるんだ羽村くん。あたしも5つ上のお姉ちゃんいるよ」
 「そうなんだ。いいなあ。わたしは兄弟いないの、だから」
 そこで奈央子は、先が続きそうだった言葉を途切らせる。少し考える仕草をしてから、こう聞いた。
 「瀬尾さん、もし時間あるなら寄り道しない? もうちょっと話したいなーって思うんだけど」
 彩乃も同じ気持ちだった。なので、そこから一番近いスーパーに入りアイスを買って、外のベンチに並んで腰を下ろした。時刻は5時を回っていたけどまだ明るいし、4月下旬に近い今日はかなり暖かくもある。それから家族の話題を中心に、30〜40分話をした。
 沢辺奈央子は見るからに真面目で控えめだし、実際、教室でもそういう振る舞いしかしていないように見えていた。けれどその認識は間違いだったんだなぁ、と彩乃は思った。彼女は結構よくしゃべる。決してうるさい類ではなく、ひとつの話題から別の話題へと広げていくのがうまい。彩乃も、ついついその波に乗ってしまい、時には自分から波を作り出し、元の話題が何だったのかわからなくなることもあった。
 「そうそう、……あれ、何の話だったっけ」
 彩乃が問うと、奈央子はしばし首を傾げて「えーと、兄弟の話の途中かな」と答える。
 「あ、そうか。うちのお兄ちゃんの話だっけ。今年20歳になるからって何かと偉そうなんだけどさ、けっこう抜けてるとこあるの。こないだなんかお姉ちゃんのお弁当と自分のを間違えて、すごい可愛いお弁当箱袋だったから笑われたって。だったらカバン入れる時に気づけってのよねぇ」
 その時の兄の様子を思い出してため息をつくと、奈央子は声は控えめながらも、とてもおかしそうに笑った。
 「あーなんかわかる、柊もそういうとこあるから。だからくーちゃん、じゃなくて、お姉さんにしょっちゅうネタにされてる」
 「お姉さんて、どんな人?」
 「うん、めちゃくちゃ頭いい人。弁護士目指してるんだけど、あの人だったら絶対なれると思う。それにすっごい綺麗でね。憧れてるの」
 そういう奈央子自身も、将来は相当の美人になるに違いない可愛らしさだし、勉強も、小テストの結果といい授業中の的確な受け答えといい、よくできる方のはずだ。その奈央子がこんなふうに、どこか熱を込めて語る、柊の3歳上の姉とはどんな人なのだろうか。気になってしかたない。
 「そんな綺麗な人なの? 今度写真見せてよ」
 「いいよ、なんなら、明日にでもうちに来る?」

 そんなふうにして、奈央子との友情は始まった。


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