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『桜、夕立ち、若葉の頃』(7)

 気づいた瞬間は意外に思えたものの、考えてみれば納得のいくことでもあった。彩乃が好感を感じるのだから、他の子が同じでもいっこうにおかしくない。まして奈央子は、誰よりも長く、近いところで柊を見てきている。……そのことに今、かすかだが確実に、嫉妬している。
 もし奈央子が本気でアプローチしたら、誰だってOKするだろうと思う。今は気づいていないのかもしれないけど柊だって、きっと嫌ではないはずだ。奈央子はこんなに可愛いし、いい子だし……何より彼自身、今でもあんなに頼るほどなのだから、特別な気持ちが心のどこかにはあるに決まっている。
 朝礼が始まるまで貸した本の話で盛り上がりながらも、奈央子をうらやましいと思う気持ちは、胸の奥をちりちりと焦がすように息づいている——今はまだ、完全に消すことはできそうにない。
 思っていた以上に羽村柊を好きになりつつあったらしいことに、自分でも驚いた。
 そしてそれは、沢辺奈央子に対しても言えることだった。羨望や嫉妬を自覚すればするほど、彼女にこういう気持ちを感じてしまうのは辛い、とも思えてくるから。
 すぐに行動に移すのは難しいかもしれない。
 ……けれどたぶん、きっとそのうち、柊と他の男子を同じレベルで考えられるようになるはず。そしたら絶対に奈央子を応援しよう、と心に決めた。


 「え、ちょっと、……もう一度言ってくれる?」
 彩乃は思わずそう聞き返していた。奈央子の言ったことはちゃんと聞こえていたが、内容が信じられなかったのだ。
 高2の夏休み。補習授業の帰りに夕立ちに遭い、雨宿りに入った喫茶で、チーズスフレに目を落としたまま、さっきの発言を奈央子は繰り返す。
 「だから、柊が付き合うことにしたんだって、同じ高校の子と」
 「——なにそれ、いつそんなことになったのよ」
 「期末のちょっと後だったかな、告白されたって言いに来て」
 「期末の後? 2週間以上前じゃない」
 それだけの間、奈央子は口に出さないどころか、そぶりにも見せなかった。彩乃でさえ、今聞かされるまでわからなかったほどに。
 「なんで言ってくれなかったの、……ていうかまさか羽村、あんたに相談したの?」
 「うん、告白されたんだけどどうしよう、って」
 口調はなにげないが、相変わらず視線はスフレに向けたままで、こちらを見ようとはしない。

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