« 「窓の向こう」(3) | トップページ | 「Like a shooting star」(2) »

「Like a shooting star」(1)

 流れ星を見よう、と約束した。
 夜のデートのいつもの口実。お互いに、会いたい時にはそんなふうに言う。
 最近はもっぱら、屋上で見る。このあたりで一番大きな病院。市街地からは離れているし、消灯時間が過ぎれば建物の中も暗くなるから、星がよく見える。
 面会時間が終わって以降、看護婦さんに見つからないように隠れているのはなかなかにドキドキする。スリルがあって面白い、と言えなくもない。
 そうして、時間を見計らって、こっそり屋上に上がるのだ。
 今夜は私の方が早かったらしい。指定席のベンチに座っていると、ほどなく彼がやって来た。扉が開く音が聞こえると同時に立ち上がって駆け寄る。ゆっくりと歩く彼に寄り添って、ベンチに一緒にたどり着く。
 「寒くない?」
 「だいじょうぶ」
 8月の半ば、そんな会話を誰かが耳にしたなら、何を言っているのかと笑うだろう。
 彼も笑いながら、私の問いに答えた。足が蒸れるから嫌いと普段は冬でも靴下を履かない彼は、今も素足をスリッパに突っ込んでいる。
 昼間のうだるような暑さが嘘だったかのように吹く風は心地よい。けれど彼にとってはやはり、少し寒くはないだろうか。上に薄手のジャケットを羽織ってはいるけど、パジャマの下には特に着込んでいないはずだから。
 「一番多く降るのは夜中だけど、今日は極大日だから、今の時間でもたくさん見えるよ」
 私の心配をよそに、彼は無邪気な表情で空を見上げる。同じように見上げると、ほぼ真上から左にかけてすうっと流れていく光が見えた。
 「あ、あれかな」
 「そうだね、あ、こっちも」
 3つ4つ連続で流れたけど、それからはしばらく、はっきりとした光は見えなかった。
 「ペルセウス座流星群って有名なんだよね。でも流れ星の大きさはそんなに変わらないんだ」
 「去年も言わなかった、それ」
 彼がくすくすと笑う。そうだっけ、と返して私も笑った。
 ひそやかな笑い声が夜の空気に溶けた後、しばしの沈黙がおりる。空を見上げたまま、彼が唐突に尋ねた。
 「ハレー彗星って知ってる?」
 「聞いたことある。76年ごとに地球に近づくんだよね。前に来たのっていつ?」
 「僕らが生まれる前の話。次は2061年らしいから、その時は70歳かな」
 「70歳かあ。立派なおじいちゃんおばあちゃんだね」
 お互いの姿を想像して、また笑う。二人して年老いて、その彗星を一緒に見る姿。
 笑い合いながらも、そんな日が来る可能性が限りなく低いことは、もう知っていた。

|

« 「窓の向こう」(3) | トップページ | 「Like a shooting star」(2) »

小説 -『恋愛風景』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「窓の向こう」(3) | トップページ | 「Like a shooting star」(2) »