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2010年3月14日 - 2010年3月20日

『リスタート』(5)

 そして、半月が過ぎた。
 相変わらず、例の問題に関しては何の進展も起こせていない。その間に里佳とその婚約者から二次会の招待状が届いたが、奈央子にも見せて「行ってくれば?」と言われた時にすら、自分たちに引き当てて話を切り出すことができなかった。
 いつも、今度こそはと思いながら帰るのに、奈央子の顔を見た途端、その話題に関してだけ口が貝のようになるのだった。……我ながら呆れてしまう。
 そして今日も、言う気持ちだけはあるのだが、結局また自己嫌悪を深めるだけで終わるかもと、すでにあきらめが入っている。同時にそういう自分を情けなく感じて、ますます墓穴を掘る心地がした。
 そんな気分で帰り着き、インターホンを鳴らした——が、応答がない。おかしい、とすぐに思う。
 会社を出る時、つまり1時間ほどに送ったメールに対し、奈央子からの返信は『もうすぐそっちの家に着くところ』だった。だから中にいるはずなのである。
 半ば無意識にノブに手をかけて回すと、ドアが開いたので驚いた。鍵をかけ忘れるなど、まるで奈央子らしくない。急に不安と焦りがこみ上げてくる。
 慌てて玄関に足を踏み入れた時、奥で何かが落ちて壊れる音がした。大きな音ではなかったが、不安を煽るには充分だった。
 「奈央子!?」
 呼びかけながら、玄関から一番近いキッチンに駆け込むのと同時に、奈央子の姿も目に入った。しゃがんだ姿勢で、床に散った卵の殻を拾い上げようとしている。先ほどの音の正体はそれらしいと、とりあえずは安心した。だが。
 「……ど、どうしたのよ」
 こちらを見上げる奈央子の顔は、妙に青ざめている。血相を変えて入ってきた柊に驚いた様子なのは納得できたが、尋ねる口調がどことなく、ぎこちなく聞こえるのが気になった。
 「どうしたって——チャイム鳴らしても出てこないし、鍵開いてるから、何かあったのかと思って」
 「え、閉めてなかった、わたし? そうだった?」
 「……大丈夫か、おまえ?」
 あまりに顔色が悪く見えたので、ごく自然に聞いたことである。なのに、奈央子は表情をこわばらせた。少しの間ではあったが、かなりあからさまに。
 「え……どうして?」
 言いながら奈央子は笑おうとした——ようだが、ひきつった作り笑い以上には見えなかった。そういう反応も彼女らしくなく、不自然だと思った。何か言いたくないことや知られたくないことがあって、それを隠すために必死になっているかのような……
 不意に、ある考えが脳裏に浮かんできた。
 まさか、と柊が思うより先に、奈央子が立ち上がる。
 「ごめんね、なるべく早く作るから待ってて」
 その言葉につられてキッチンのカウンターに目をやると、買ってきたらしい食材が袋やパックに入ったまま並べられている。食事の準備に手が付けられていた様子はなく、ふたが開いた状態の炊飯器の中も空だった。……彼女がここに着いてから、30分以上は経つだろうに。

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