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2010年4月4日 - 2010年4月10日

『リスタート』(8)

 柊が黙ったきりなので、当然ながら彩乃は不審に思ったらしく、再度「なんなの?」と聞いてきた。
 「ケンカでもしたわけ?」
 話の流れからしてそう聞かれるのは当然である。しかし事情を話すことはためらわれた。もしかしたらと思うあまりに口をすべらせてしまったのを、柊は後悔していた。
 奈央子のことを彩乃に打ち明けたら、5年半前の「あの時」の再現になってしまう。今日ここで会ったのはあくまで偶然だが、危機的状況の打開に彼女を頼る点は変わりない。2度もそんな真似をするのは、いくらなんでも情けないだろう。
 そう考えてなおも黙っていると、彩乃がはーっと大きくため息をついた。そのわざとらしさには覚えがあるなとぼんやり思い、「あの時」に呼び出されて話をした際に似たことがあったのを思い出した。
 「……なんていうか、肝心なところで意思の疎通が足りないよね、あんたたちって」
 呆れたような彩乃の言葉に、そうかも知れないと今さらながら思う。なまじ、言わなくてもわかることが多いだけに、お互い言葉少なになる時もある。それを居心地悪く感じたりしたことはなかったが、たまたま今までは不都合が出なかったというだけなのかも知れなかった。
 「言っとくけど、あたしは奈央子からなにも聞いてないし、聞くつもりもないからね。気にならないわけじゃないけど」
 諭すような口調で彩乃は続けた。
 「もういい大人なんだから、ちゃんと話して二人で対処しないと。……いくら付き合いが長くてもね、話さなきゃわからないこともやっぱりあると思う」
 「——そうだよな。わかってる」
 柊は素直にうなずいた。言葉を惜しむつもりはないし、そもそも、今は惜しんでいる場合でもない。結果が悪い方へ転がるとしてもそれは自分の責任に違いないのだから、甘んじて受けるべきだろう。
 「なら、すごくおせっかいだと思うけど……」
 彩乃が、今度はややためらいながら、
 「問題解決したら、いいかげんプロポーズしてあげなさいよ、奈央子に」
 と言ったので、柊は言葉に詰まりながらも反射的に赤くなった。今まさに考えていたことだったからである。
 「そう言うそっちはどうなんだよ」
 「あたし? ……あたしは博士課程進んだところだし、向こうも就職したばっかりだし」
 言いながら彩乃もほんのり顔を赤くする。
 「あたしたちはあと2・3年かかるぐらいでちょうどいいの。そんなことより、羽村は奈央子とのことだけ気にしてればいいのよ。わかった?」
 指を突きつけられて断言された。照れまじりの口調とその勢いに苦笑しつつも、柊はもう一度はっきりとうなずいた。

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