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2011年6月

二人の休日

 がくり、と頭が前のめりになった瞬間にはっとする。
 目をしばたたいて手元を見ると、書類の文字は途中から何と書いているのか自分でもわからない有様。シャーペンでの下書きで助かった、と心の底から思った。
 どうやら、というか確実にうたた寝を少しの間していたらしい。このところ帰りが毎日終電近いし、先週末は土日とも出勤したから通算10日ほど休んでいない。
 当然疲れてはいるのだが、今は口が自然に笑いを形作った。わずかな眠りの中で見た、短い夢を思い出したから。
 「何にやにやしてんだ、羽村」
 そのタイミングで降ってきた声に、内心かなりうろたえた。顔を上げると、同じ営業部の、先輩社員の不審そうな表情。
 「……あ、いえ何でも」
 言いながら机の書類に集中するふりをするものの、不自然であるのは自分でも気づかざるを得なかった。顔には明らかに血が上っているようなほてりがあるし、ペン先の置きどころがとっさに定められない。
 すると再び、今度は先ほどよりも近い距離から声が降ってくる。
 「だいぶ疲れてんな。ま、仕事詰めたい気持ちもわかるけどな?」
 その声音はなにやら面白がっているような調子で、直接見なくても、相手が含み笑いをしているだろうことがわかった。要するにからかわれているのだ。
 「けどいいかげん代休取った方がいいと思うぞ。居眠りで処分食らったら奥さんも困るだろ? じゃな」
 ぎょっとして振り返った時にはもう、相手の背中は廊下へと消えていた。得意先の数も営業成績も部内で一番の彼は非常に早足だ。まだ午後2時過ぎだが、あの調子だと今日も営業回りの後で直帰になるらしい。
 ……見られたのが先輩だったからよかったが、出張で留守の課長あたりが見ていたら、まず間違いなく呼び出しを食らうところだった。社会人、しかも3年目にもなって、学生のような叱られ方はさすがに避けたい。一度で処分は大げさにしても、万が一何度も重なれば、あり得ない話ではなくなるだろう。
 確かにそろそろ代休を申請した方がよさそうだ、と自覚した。毎朝「無理しないでよ」としか言わないが、たぶん奈央子も気づいて心配しているだろうし。
 と考えて、先ほど見ていた夢を柊はまた思い返した。

 それは数日前、最近の中では早く帰れた夜の出来事。早いといっても10時は過ぎていたと思うが、奈央子は寝ずに出迎えてくれた。
 『おかえり。ちょっと待ってて、キリのいいところまで編んじゃうから』
 と言い置いてぱたぱたと戻っていった彼女を追って居間に入ると、早くもソファに座り直して編み針をせっせと動かす姿があった。
 結婚後も教師の仕事を続けていた奈央子は、11月になると同時に産休に入った。以来、手が空いている時間はほぼ、そんなふうに編み物をしている。
 小学生の頃から彼女は、友達へのプレゼント用に小物をいろいろ作っていたらしい。かなり以前の、ブローチだか髪留めだかをもらった姉がほめちぎっていた記憶がうっすらとある。ちなみに自分は編み物どころか、服のボタン付けすらまともにできない。中学時代の、家庭科の課題を毎回手伝わせた情けない記憶が、こちらははっきり残っている。
 ともかく、昔から器用な奈央子は編み物のスピードも速く、2日ほどで子供用の靴下を完成させてしまった。そして彼女曰く「洗い替えと、子供が少し大きくなった時用」の、2足目以降の小さな靴下は今も増え続けている。何事にも丁寧で抜かりのない奈央子らしいというべきか。
 けれどその時編んでいた物は靴下っぽくはなく、そもそも子供用にしては大きいように見えた。
 『あれ、靴下編むのやめた?』
 『え、ああこれ? 気づかれちゃったか」
 なぜだか照れくさそうに笑うと、『気分転換用』と彼女は言った。
 『同じ物ずっと編んでると飽きてくるから。で、まあ1月までなら時間もあるし、あんたのマフラーでも作っとこうかなーと思って』
 という説明からすると、再来月の自分の誕生日プレゼント用らしかった。付き合い始めの頃に一度もらったきりだから、彼女の手作り品はずいぶん久しぶりだ。
 嬉しいのだが、説明の一部分にちょっと引っかかりを覚え、つい聞き返してしまった。
 『「でも」って何だよ。おれは子供のついでか?』
 『うん、そう』
 思わずぽかんとした自分の表情を見つめ、奈央子はぷっと吹き出した。
 それに続いたくすくす笑いにちょっとだけムッとする気持ちを感じなくもなかったが、楽しげに手を動かす様子を見ていたら次第に、まぁいいかと思えてきた。何だかんだ言っても彼女が今作っているのは自分のための物で、子供の分は後回しなのだ。
 などと考えた自分に、これでは子供にやきもちを焼いているみたいだと、思わず苦笑が浮かんだ。少し前には奈央子が情緒不安定で、子供に対する嫉妬心があったと打ち明けられた。それをなだめた自分が今度は同じようなことを考えるなんて。
 幸い、集中していた奈央子には表情の変化をさとられなかったようだ。「キリのいいところ」までできたらしく、「よし」とつぶやいて編みかけのマフラーと道具をひとまとめに袋にしまった。だいぶ大きくなったお腹をかばいつつ立ち上がり、
 『お待たせ、今からごはんあっためるから……どうかした?』
 傍らを通り過ぎようとした奈央子が、こちらの視線に気づいて足を止めた。——ちょっとだけ、驚かせてやりたい。
 小首をかしげて見上げる彼女の顔に、無言で自分の顔を近づけた。
 数秒の間。
 『——なに、いきなり』
 『んー。なんか急にしたくなって』
 『……ばかじゃないの』
 目をわずかに見張り、次いでぶっきらぼうに言った奈央子が顔を背ける直前、頬をうっすら染めていたのは見逃さなかった。いくらか早足でキッチンに向かう背中にささやかな勝利感を覚えつつ、湧き上がった愛おしさで胸が満ちた。
 結婚してもなお、キスぐらいで赤くなる彼女を、心の底から可愛いと思ったから。

 もちろん本人には言っていない。そんなことを言ったら顔を真っ赤にしたあげく、照れのあまりに機嫌を損ねてしまうだろう。けれど言えないのがもったいないぐらいに、あの時の奈央子は可愛かったと思う。何度思い返しても飽きないほど、文字通り夢にまで見るほどに。
 ——今日は、久しぶりに定時で仕事を終えた。片付けてから申請書を1枚書き、提出する。少し驚かれたが、特に支障なく検印をもらえてほっとした。
 会社を出てすぐに電話をかけると、3コール目でつながった。
 「もしもし、お疲れさま。どうしたの?」
 「あ、今から帰る。メシよろしく」
 「え、もう終われたの。早いじゃない」
 「今日で一段落させたから。でさ、明後日休むから」
 「えっ、……大丈夫なの、そんな急に」
 「たまたま休む奴いなかったから申請通してもらえた。今んとこ急ぐ件もないしさ」
 「……そう。よかった」
 その「よかった」が、本当に安心したような響きと深い呼吸音付きだったから、唐突に罪悪感が強くなった。予想以上に彼女を心配させていたということを認識して。
 まっすぐ帰るから、と言って通話を切り、今度は柊自身が深く息をつく。お互い無理はしないって約束したはずだったのにな、と自戒する。忙しいのを言い訳にして、少しでも出産育児費用を稼いでおくに越したことはないからと、疲れ具合をちゃんと自覚しないままに働き続けていた。
 年明けには子供が生まれて、父親になる。それを今は周囲の大半が知っているから、何かにつけてからかわれることが日に日に増えている。だから、必要以上にムキになっていた面もあるかもしれない。
 ……これでは本当に、少し前までの奈央子と同じだなと思った。責任と役目をこなそうとするあまり、一心に頑張りすぎてしまう。
 けれど彼女も自分も、他の誰でも、いつまでも頑張り続けることはできない。タイミングを見計らって休む必要がある。
 考えてみたら、結婚してから——正確に言えば奈央子の妊娠がわかってから、二人同時に「休んだ」ことはないかもしれなかった。この半年近くずっとバタバタしていて、本当の意味での「休日」を過ごしてはいない気がする。
 明後日は、二人で一緒にのんびりしよう。何もせず、どこにも出かけず無駄な時間を過ごして。いや、天気が良ければ散歩ぐらい行ってもいいかも。近所をそぞろ歩いて、手をつないで。奈央子はきっと照れまくるだろうが、嫌がられても離さずにいよう。
 自分がそうした時の奈央子の、困りきった表情やぼそぼそと抗議を口にする様子が、実にリアルに想像できた。それを見るのが楽しみで、また口の端が上がってくる。
 意地が悪いのは承知しつつも、奈央子のそういうところが好きなんだからしかたない、と柊は自分に対して思いきり開き直った。

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あの頃、こんなふうに

 「なあ、沢辺さんて何が好きかな」
 朝練前の時間、いきなりそう尋ねられた。
 「はっ?」
 「沢辺さんだよ、4組の。幼なじみなんだろおまえ」
 勢い込んで尋ねてきたのは同じバスケ部の、同学年の湯浅。もっとも部室にいるのが二人だけでなかったら、自分に向けた質問とは思わなかっただろう。それぐらい、普段こいつと会話する時なんてないから。今年も去年もクラスが違うし、入部以降に作られた練習グループも違う。湯浅は1年からレギュラー候補で、自分はずっと補欠要員組。
 先月には校外試合のスタメンに選ばれた、今や自信満々で怖いものなしといった態度の湯浅が、柊はどちらかといえば苦手だった。だから話しかけられて正直困ったのだが、今聞かれたことに答えない理由もないから、しかたなく言葉を出す。
 「……、そうだけど。それがなんか関係あんの」
 「なんかって、関係あるに決まってるから聞いてんだよ。ガキん時から知ってんだったらさ、彼女の好みぐらいわかるだろ。アイドルとか食いもんとか」
 妙に熱っぽく説明されても、やはりよくわからなかった。奈央子と幼なじみであるのと、奈央子の好きな芸能人やら食べ物やらを知っているのと、どう関係があるのか。
 確かに子供の頃はよく一緒にいた。家が近いし、3歳上の姉が奈央子を妹のように可愛がっていたから、弟イコール自分の子守を口実にしょっちゅう家に奈央子を招き、あるいは沢辺家を訪ねていた。
 だが自分が小学2年か3年ぐらい、男友達と遊び回るのが主になる頃にはそういう習慣もなくなり、以後は女同士の付き合いが続いているらしい。
 本当の姉妹よりも姉妹らしいあの二人なら、お互いの好みもよく知っているだろう。だが自分を同じ対象に数えられても困る。
 「別に、知らねーし」
 「んだよ、頼りねえな」
 ぼそりと口にした答えに、返ってきたのは吐き捨てるような物言いだった。自分の返答も愛想があるとは言いがたかったにせよ、ムッとした。
 これが他の奴ら、それなりに仲の良い連中なら、当人に聞いてやろうとか提案したかもしれないが、相手がこいつでは話は別だ。そうでなくとも勝手に頼ろうとしておきながらこんな言い方をするような奴には、協力してやろうかという気もそがれる。
 「んなこと言われたって、あいつは姉貴とは仲いいけどおれは別に。だいたい、んなことなんで聞きたいんだよ」
 そう、まず問題はそこだ。当然の疑問に、めずらしく湯浅は即答しなかった。どういうわけか、視線が全然違う方向を向いている。
 「……頼んない上に鈍いな羽村。女子の好きなもん知りたいっつったらわかんだろ」
 機嫌取りたいからに決まってんじゃねえか、と続けた表情は、無表情を保とうとしながらも引きつっている。
 奈央子の機嫌取り? どういうことだろうか。
 「あいつ怒らせたわけ? 何したんだよ」
 「まだ何もしてねえよ、これからなんだよ」
 とことん鈍いな、と言った顔はなぜか若干赤い。
 本当に訳がわからない。そう思ったのとほぼ同時に、あさっての方を向いていた湯浅の顔がいきなり振り向いた。なにか開き直ったように、というよりも普段に近い、必要以上の自信を浮かべて。
 「ほら、あれだけレベル高い女子だったらやっぱ、相応の相手が必要だろ。いまだに付き合ってる奴がいないってことは彼女もそう思ってんだろうし。だから俺が立候補してやろうとか思うわけ。なかなか俺レベルの男なんていねえじゃん、な」
 言い切って得意げな笑みを向けた湯浅を、柊は未知の生物かエイリアンを目の前にしている気持ちで見つめた。
 1年の後半頃から、彼女がほしいだの彼女ができただの、そういう話題をちょくちょく耳にはする。女子と1対1で付き合うことがひとつのステップアップ、いやステータスだったかとにかくそんな感じで、2年になってますますそういう空気が強まってきているのは感じていた。
 ただし柊個人にしてみれば、付き合ってみたいと思う女子がいるわけじゃないし、そもそも女子は不思議な生き物だと思う。嫌いではないが、何を考えているのか謎な時が多々ある。ことに身近な女子たちは。
 だから、よくわからないが湯浅が奈央子と付き合いたいと考えているらしい、と気づいて呆然としてしまった。
 生まれた時からの幼なじみ、誕生日も近いからある意味双子みたいに育てられてきた、もうひとりの姉みたいな存在。
 いや確かにそのへんの女子よりか目立つ見た目だし、時々手厳しいことは言ってくるものの基本いいやつだと思う、けど。
 あいつ相手にそんなこと考える奴がいるなんて、というのがまず最初に思ったことだ。男子とか女子とかいちいち意識しない、それこそ女きょうだいに限りなく近い認識のままで13年以上いるから。
 けどあいつはおまえみたいな奴はたぶん好きじゃない、と思ったが黙っていた。奈央子の好み、ましてや好きな男のタイプがどんなのだなんて知らないけど、あからさまに自信過剰で自分がうまくいかない可能性なんてかけらも疑っていない、こんな奴は奈央子だって迷惑だと思う。
 …… とはいえこいつが女子にそこそこ人気があるのも間違いなかった。バスケ部の中でも背が飛び抜けて高いし見た目は悪くない。レギュラーになってからは特に、手紙やら待ち伏せやらの数が増えたとも聞く。自信過剰な態度も女子から見たら「かっこいい」のかもしれないし奈央子が同じように思わないとも限らない。
 そんなことを考えながら、自分の想像で機嫌良さそうににやにやしている湯浅が視界に入ってくるのは実に居心地が悪かった。練習後なら着替えてさっさと出ていくこともできるが今は朝練前で、全員がそろってのミーティングが終わるまではうかつに出ていけない。なんで今日に限っていつもより早く来てしまったのかと心の底から後悔した。
 苛立ちで吐き気さえ感じ始めた時、やっと他の部員が来てほっとした。しかも普段よく連れだって行動する奴らだったから、挨拶ついでに話しかけて不愉快な存在は無視することができた。
 奈央子に嫌われればいいのに、そうなりゃいい気味だと、頭の片隅では考え続けながら。朝練中も授業中も放課後も、結局1日中そうしていたような気がする。
 それほどまでにイライラした本当の理由に気づくのは、ずいぶん後のことだ。


 夕食後、思い出したように見せられたのは1通の封書だった。
 「中学の同窓会?」
 ざっと読んで尋ねると、隣に座る奈央子がこくりとうなずく。
 「卒業10周年の記念企画だって。ほんとは去年だったけど、先生の都合がつかなくてだめだったから今年に延期したらしいわよ」
 彩乃が実行委員だから聞いたの、と奈央子は中学時代からの親友の名前を出す。中学では柊も何度か同級生だった。1年と、今度同窓会がある3年のクラスで。
 「で、行くのか」
 「うーん、みんなには会いたいけどどうしようかな……この子もいるし」
 視線を落とした先には、授乳直後でぐっすり眠っている娘の寝顔。この6月で半年になる。日に日に大きくなる我が子は、どちら似なのかはまだ判断できないが、とりあえず起きていても寝ていても非常に可愛い。
 「9月だろ。まだ産休残ってるし、土曜日なら休めるからおれもついてくし行けば。雪花(ゆか)は実家に預けてさ」
 「…………んー、でもどっちに預ける? まだお願いしたことないし」
 言葉の先を半分本気で困ったようににごした理由は、聞かなくてもわかった。実家は歩いて2分の間隔しか空いていないご近所さんで、どちらの親にとっても初孫である。片方を優先する理由がなくて決めづらい。
 「まあ、それは都合聞いてぼちぼち決めたらいいんじゃねーの。まだ時間あるんだし」
 「そうね、仕事復帰したら機会あっても行きづらくなるし……じゃあ二人とも出席で返事出しとくからね。あ、幹事の長山さんと高野くん、ちゃんと覚えてる?」
 バスケ部で同期だったクラスメイトの名に、ふと連想で思い起こされることがあった。12年前のちょうど今頃、朝練前の部室での出来事。……そういやあんなこともあったけな。
 「ちょっと、聞いてるの」
 「――え、ああ。大丈夫覚えてる」
 「ならいいけど。当日会って『誰?』とか言わないでよ。後で卒業アルバム出しとくから念のため見といて」
 わかった、とこちらが答えるのを確認して、奈央子は雪花を抱いたまま立ち上がった。浴室の方へ向かうところを見ると、風呂に入れるつもりらしい。
 一人になり、緑茶の残りを飲みながら再度思い返していると、いつの間にか口元がほころんでいた。
 あの日からどのぐらい後だったのかは定かでないが、一時期、湯浅が異様に静かだった頃があった。誰に話しかけられても言葉少なく不機嫌で、時には先輩や顧問に対してさえそうだったりした。
 その時は別の意味で近づきたくないと思い、それ以上深くは考えなかったのだけど、今思い返してみるとたぶん、いや十中八九、奈央子に「立候補」して断られたのだろう。
 湯浅に対していい気味だとはもちろん思うが、それ以上に、奈央子があんな奴と付き合わなくてよかったと、心の底から思う。たとえ付き合っていてもすぐ別れただろうけど、少しの間だったとしても、奈央子が嫌な思いをしなくてよかった。
 こんなふうに自分が考えるようになるとは、あの頃は思っていなかった。まあそれを言うなら今のこの状況なんか想像もしなかったよな、と今度は少しだけ声に出して笑う。
 当時は女子という意識さえなかった幼なじみと、結婚して子供を育てているのだから、未来は本当に予測不可能なものである。よくよく考えれば、あの時やけにイライラしたのは根底に奈央子への想いがすでにあったからなのだろうが、あの頃はその可能性の一端すら思い浮かばなかった。
 湯浅を選ばなかった奈央子は男を見る目がある、はずなのだが現状を考えると、自信を持って言い切れない不安は実のところ今でも感じる。
 本人に言うと呆れられるか怒られるかだと思うから言わないが、客観的に見れば(特に姉に言わせれば)、奈央子は頭はいいけど男の趣味はいまいちと言われても不思議じゃない、むしろ当然だろう。
 けれど、他の誰が何を言っても、全く気にならないわけではなくともどうにか受け流せる。奈央子が選んでくれたのは自分で、彼女の気持ちは信じられるから。
 あの頃の未来が今に――奈央子と、そして子供と過ごせる日々につながっていてよかった。柊はあらためて、自分の運命というか人生に、大きな有難みを感じた。

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