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2020年6月

2020年6月13日 (土)

第117回2代目フリーワンライ企画/2020.6.13

使用お題:一番の弱虫
タイトル『弱虫を卒業したら』

 1コ下の幼なじみは町で一番の弱虫だった。いつもガキ大将グループに泣かされる、情けない男子。そのたびに助けに駆けつけたのは私。オトコ女と呼ばれたり、夫婦と茶化されたりしたけど、かまわなかった。あいつを助けるのが私の使命、私だけの役目だと思っていたから。
 ……なのに、あれから約10年が経って。
 「鮎原くーん、こっち向いてよ」
 「やーん恭くん笑った、かわいいー」
 「一緒にカラオケ行こうよー」
 今じゃ、幼なじみは我が校のアイドル。中性的な童顔と長身のアンバランスが可愛い、そんな評判を獲得している。確かに、中3ぐらいからどんどん伸びた身長は、高校入学時から目立つ要素ではあったけれど。
 がらり、と生徒会室の扉が開いた。
 「失礼します」
 「あっ鮎原くんだ。ねえねえ、お菓子食べてかない?」
 「すいません、この後部活なんで。あ、多美ちゃん」
 副会長(3年生)の誘いをやんわりと断った後、恭太は私に声をかけてくる。
 「……なに?」
 「母さんが帰りに寄ってって言ってたよ。またおかず作るからって」
 「わかった」
 「じゃーね、行ってきます。失礼しました」
 「ちょっとちょっと、会計?」
 「なんですか」
 「あれ、打診してくれてる? 来年度の役員選挙に出ろって話」
 「いちおう言いましたけど。でも興味なさそ」
 「そこを興味持たせるのが役目でしょ。あれが生徒会入りしてくれれば求心力間違いなしなんだから」
 「──努力はします」
 胸倉つかむ勢いの副会長と一定の距離を保ちつつ、そう答えた。そうとしか言いようがない。あいつを、関心のないことに目を向けさせることがどれだけ難しいか、小さい頃から知る間柄だけによくわかっている。
 ……わかっている、はずだった。

 「いつもありがとうございます、おばさん」
 「いいのよ、隣同士じゃない。今日もお母さん遅いの?」
 「はい、夜勤なんで」
 「介護ヘルパーも大変ねえ。あ、恭太おかえりなさい」
 「ただいまあ。あ、今日は肉じゃが?」
 「そうよ。ほらほら、そんなとこ突っ立ってると多美子ちゃんが通れないでしょ」
 失礼します、とそそくさと鮎原家を出て、隣の森坂家、イコール自宅に戻る。
 玄関に入って扉を閉めた途端、ため息が出る。
 ……ずっとこうだ。恭太が、高校に入学してから。
 中学の途中までは私より背が低くて、頑固なくせに弱っちい、昔からの性格も変わらなかった。何かあるたびに私が助けて、私が守ってきたのだ。
 そういう関係性が、180度変わるなんて、考えなかった。

 今じゃ、私が助けなくても、守らなくても、恭太は平気なんだ。
 ……当たり前だ、あいつだって成長する。いつまでも弱っちい子供じゃない。
 それを認められない──「みんなの鮎原くん」になっていることを寂しく感じてしまう、私が今では、一番の弱虫に違いない。
 インターホンが鳴っているが、出る気になれなかった。放っていると、今度は寄りかかっている扉が直接叩かれる。「多美ちゃん多美ちゃん、生きてますか?」という言葉付きで。
 「…………生きてるわよ、なんなの」
 「おばちゃん遅いんでしょ。せっかくだからうちで食べてったらどうかなーって」
 「おばさんが言ったの?」
 「いや、俺がそう思ったの。なんか多美ちゃん元気なさげだから」
 「──あ、そう」
 とっさに出るのは愛想のない口調で、愛想のない言葉。感じた嬉しさを正直に表に出すことは、できなくて。
 「ほら行こ。メシが冷めないうちにさ」
 ごく自然に背中に触れて促す、大きな手。その感触が、湿った心をほんのりと乾かし、温めてくれる。その事実が照れくさくも、嬉しい──
 「ちょっと待って、タッパー冷蔵庫に入れてくるから」
 頬に上った熱に気づかれたくなくて、いったん家の中に逃げ込む。この感情が何なのか、素直に自覚できる頃には、私は弱虫から卒業できるだろうか?
 そうなりたい、と心から思いながら、幼なじみが待つ玄関へと戻っていく。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第117回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が4回目の参加。
私の原点、ともいうべき幼なじみ同士の恋愛ものです。まあこの物語だとまだ、恋愛未満ですが。さてこの二人はどうなるのかな?(笑)

2020年6月 6日 (土)

第116回2代目フリーワンライ企画/2020.6.6

使用お題:造作もない
タイトル『魔女アリスネイルの特訓』

 「娘の熱が下がらないんです、どうか薬を」
 「好きな人を振り向かせたいから、惚れ薬をお願い」
 「夫の暴力から逃れたいんです。心変わりの薬ありますか」
 魔女、アリスネイルの館には、様々な理由で人々が訪ねてくる。決して開放的には見えない、薄暗い古びた館を訪れる人が絶えないのは、魔女が薬作りの名人だから。各々の切実な願いをもって発される依頼に、魔女の答えはいつも同じ。
 「造作もないね。ほら薬」
 テーブルにことりと置かれる小さな瓶。依頼人たちはそれを、何よりも大事そうに抱きしめて家路につく。
 だが、どんな依頼にでも即座に首肯するわけではない。憎い奴を殺したい、戦争に勝つために強くなりたい、そういった願いに対しては相手を懇々と諭し、悩みを和らげる薬を入れた茶を供して、帰らせる。数百年を生きた存在だからこそ、その言葉には真実味があり、曇った心にも届くのだろう。

 さてその日、館にやって来たのは、一人の若い娘。
 部屋の扉をきしませながら入ってきた彼女の表情は、冴えなかった。そして容貌自体も。
 「おやおや。どうしたんだい」
 「…………」
 「黙ってちゃわからないよ。頼みごとがあるんだろう、言ってごらん」
 娘はうつむいたまま、すうっと息を吸い込んだ。そして顔を上げる。
 「……ふられたんです」
 ふんふん、と魔女は頷く。何百回、何千回と聞いてきた、苦しみの吐露。
 惚れ薬が欲しいのかい、との問いに反し、娘は首を振った。
 「あんな人、もうどうでもいいです。それよりも」
 小さな緑の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
 「ふられたのは私がきれいじゃないからって、馬鹿にした人たちが許せない。あの人たちを見返したい」
 そう言って、こちらをまっすぐに見つめる目には、魔女でも長らく見たことのないような強い光があった。背筋を伸ばした立ち姿、引き結んだ唇。いずれにも揺るぎない決意が感じられる。
 魔女の口を動かしたのは、悪戯心か、同情心か、あるいは。
 「なら、おまえさん。私の弟子になってみるかい?」

 「……アリスネイルさん」
 「師匠だよ」
 「師匠、どうして、魔女の修行、に体力作りがあるんですか」
 「何言ってんだ。魔女は長生きなんだよ、健康でないとまともに商売ができないじゃないか」
 「じゃあこの、顔面体操も?」
 「もちろんだよ。あんたの顔は見栄えがするとは言えないが、表情はいくらでも作れる。笑った顔が魅力的なら、元の容貌の何倍も、何十倍も良く見えるもんだ」
 商売は印象が大事だからね、と魔女の師匠は笑う。数百年の年を経てしわを刻んだ顔に、昔は讃えられたであろう美貌の片鱗が、蘇ったように見えた。

 そうして、さらに百年近くが経った頃。
 かつての魔女は病床で、残り少ない時を過ごしていた。
 「師匠、薬湯です」
 「おやおや、もうそんな時間かい」
 弟子が運んできた器を、受け取る力はもはや無い。上半身を支えてもらい、器の縁を口に当ててもらってようやく、薬湯を少しずつ啜る。
 「客は、帰ったのかい」
 「はい。今日はそれほど、訪ねてくる人もいませんでしたし」
 ふんふん、と頷く仕草は、起き上がれなくなった今でも変わりない。弟子はそれを、嬉しそうに、かつ少し悲しそうに見つめた。
 「そんな顔をすることはないよ。こういう時が来るのは分かっていたじゃないか、私もあんたも」
 にこりと笑おう──とする顔は、引きつっている。もう、筋肉があまり動かないのだ。布団の上に置かれた手を、たまらずに弟子は握った。
 「師匠、……私は、ちゃんと魔女になれたでしょうか」
 決して美人とは言えないが、生き生きとした大きな緑の目と表情、すらりとした長身の、見た目三十路ほどの女性。かつての冴えない少女の面影は見えないが、この、まっすぐに見つめてくる目の光の強さは、同じだ。
 「当たり前じゃないか。あんたは私の、自慢の弟子だよ」
 薬作りの名人と言われた魔女アリスネイルは、弟子の手を残った力で精一杯握り返し、永遠の眠りについた。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第116回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。私は今回が3回目の参加。
私にはめずらしく、架空世界ファンタジー的に書いてみました。魔女キャラを出すのは、実は今回が初めて。書いていてなかなか楽しかったです。機会があれば、この魔女の過去にもちょっと触れてみたいなあ、とか思っております。

Twitter300字SS/お題「鍵」

タイトル「2本から1本に」

彼女に合鍵を渡したのはいつだったろう。
たぶん、就職してからだと思う。お互い仕事で忙しくて学生時代のように自由には会えなくなったから、いつでも家には来られるようにと思って。
その後、彼女の家の鍵ももらって、この数年間、2本の鍵を持つのが日常だった。
──それが、今日からは二人とも、1本になる。
「これ、買ってきたんだけど」
少し照れくさそうに、青い勾玉のキーホルダーを差し出された。彼女の鍵にはすでに、同じ形の赤い勾玉。結び付けた後の、目の前に掲げてみる仕草が重なった。顔を見合わせ、ふふ、と笑い合う。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
座ったまま、互いにぺこりとお辞儀。同じ家で暮らし始める、二人の儀式。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
既刊『anniversaire』シリーズからの派生作品、後日談となる小話。社会人3年目の終わり頃、同棲初日の光景(『evergreen』ラストの翌日)をイメージして書きました。

(『anniversaire』シリーズは、novelist.jp、小説家になろう、エブリスタ、pixiv、カクヨムにて掲載しております。pixivでは「matsuya0510」、それ以外では「まつやちかこ」にてユーザー検索の上、作品一覧からご覧ください)
(※各所、R-18またはR-15扱いとしておりますので、ご確認・ご了承の上でご覧ください)

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