2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ

« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »

2020年7月

2020年7月25日 (土)

第123回2代目フリーワンライ企画/2020.7.25

使用お題:全部
   階段の踊場
   ガリガリ
   おててつないで
   慣れないことするからだ
   バラしたのはお前か
タイトル『終業式の宣言』

 キンコンカンコーン、と鳴ったチャイムは4時半のもの。直後スピーカーから、下校時刻を知らせる音楽が流れ出す。
 「お、もうこんな時間か。よし、今日は終了ー」
 顧問の理科教師が部活の終わりを宣言する。
 「これで今年度の活動も終わりだ。西崎、ご苦労さんだったな」
 名指しでそう言われたのは、自分が進級と同時に、転校するからだ。慣れ親しんだ科学部の面子とも、この理科室とも今日でお別れ。顧問に「餞別にやろう」と手渡されたのは、中学3年生向けの理科の参考書。良い本だからしっかり勉強しろよ、とひたすら真面目な顧問らしい一言が添えられた。
 「じゃあ、他の皆はまた新学期にな。お疲れさん」
 「おつかれっしたー」
 男子ばかり、10人ほどの面々が唱和する。片付けを終えた奴からめいめい、鞄を担いで足早に出ていく中、なんやかやで最後になってしまった。再度、顧問と挨拶をして、夕日が差し込む廊下を速足で歩いた。
 3階から2階へ降り、さらに1階に続く階段の手前で、思わぬ相手に遭遇する。
 「……あ」
 「……おう」
 職員室の方向から歩いてきたのは、同じクラスの本原。幼稚園から同じ所に通っていて、小学校時代は、男子女子の対立のたび代表になっていた同士だ。だからわりと本気の口喧嘩をしたことも少なくない。
 そんな、ある意味で半分同性のような感覚でいた相手に会って、お互い若干口ごもってしまうようになったのは最近のこと。1ヵ月ちょっと前のバレンタインに、本原からチョコを渡されて以来だ。義理さえもらったことがなかったから、かなり驚いた。が、箱の中身を見た時はその比ではなかった。どれだけ鈍感でもわかるだろう、といった感じの、気合の入った手作りチョコだったのだ。
 以来、本原との間には、微妙な空気が流れている。今も、鉢合わせして立ち止まって、なんとなく、階段を下りる権利を譲り合うような仕草をしてしまっている。埒が明かない、と思いきって1段目に踏み出すと、本原もほぼ同じタイミングで足を出していた。
 ……そのまま、なりゆきで二人並んで、階段を下りていってしまう。
 踊り場の大きな窓からは、夕焼け空とは対照的に暗くなり始めた空が見えた。あのあたりに光っているのは一番星だろうか、それとも何か惑星か。
 なんて考えつつ少し足を止めていたら──急に手をつかまれて、びっくりした。見ると、本原の右手が、自分の左手を握っている。え、と本原に視線を向けると、頬が真っ赤になっている。
 「…………」
 「…………」
 つかまれた手を、一度離した。本原がバツの悪い表情になる前に、手を、つなぐ形に組み直す。本原の顔はさらに、耳まで赤くなった。たぶん、自分も同じだろう。
 手をつないだまま、残りの階段を、一歩先に行く形で一緒に下りる。何してんだろう、という疑問と、まあ別にいいか、という思いが混ざり合っていた。
 と。
 いきなり、後ろに手を引かれた。本原が立ち止まったのだと気づいて振り返り、見開いた目の視線を追って、階段下にいる人間の存在に気づいた。
 ガリガリ君、と呼ばれる坊主頭で逆光でもすぐにわかった。同じクラスの堀田だ。当然ながらというか、驚愕の表情を浮かべている。3人とも数秒間フリーズしていたのち、はっ、と一番先に我に返ったのは堀田で、こっちが声をかける前にバタバタと走って行ってしまった。

 翌朝、教室に入った途端に大騒ぎに出迎えられた。
 黒板には誰かが描いた相合傘、下にある名前は当然、自分と本原。はやし立てる男子とひそひそ会話しながらもきゃあきゃあ言い合っている女子。
 バラしたのお前だな、と人垣の中に堀田を探すと、奴はふいと横を向いて知らぬふりを決め込んでいる。
 クラスの連中が、自分が入ってきたときのようにどよめいた。振り向くと予想通り、本原が入り口で固まっている。奥さん来たぞ、と誰かの声がして、また女子が「きゃーっ」と騒ぐ。何人かの、本原の友達らしき女子は駆け寄ってきて、何かしら本原に声をかけていた。事態を把握したのか、今や涙目になっている本原。
 ……やれやれ、と思った。まったく、慣れないことをするからこうなる。
 反省を覚えつつ、覚悟を決めた。後ろへ引き返し、女子の輪の中にいる本原の手を引っ張って、二人で教壇に上がった。
 驚きの空気が広がっていくのがはっきりわかる中、宣言した。
 「堀田、お前が見た通り、そういうことだから。皆もよろしく」
 静まり返る教室。5秒後には、ひときわ大きいどよめきに満たされた。
 つないだ手をほどかないまま左を見ると、半分泣き顔の本原が、口をぱくぱくさせている。昨日並みに真っ赤な顔で。
 ──しょうがない、この顔を、可愛いと思ったんだから。
 とはいえ後のフォローがものすごく大変そうではある。それはまあ、終業式の間に急いで考えることにしよう。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第123回への参加作品です。
毎週土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が7回目の参加。前回に引き続き、お題全部を使いました。
内容は前回と違い現代もの、中学生主人公の恋愛ものです。……甘酸っぱい感じを目指してみましたが、いかがでしたでしょうか。思春期の少年少女って、想像するのはまだしも、書くのはけっこう難しいなあ(苦笑)……まだまだ勉強せねば。

2020年7月18日 (土)

第122回2代目フリーワンライ企画/2020.7.18

使用お題:全部
   眉一つ動かさず
   おもいでは灰となり
   サーカスのテント
   二度目はないと思え
   朝露に濡れて
タイトル『ある執行人と少女の物語』

 「……覚悟はいいか」
 「はい」
 真っすぐにこちらを見上げる少女の瞳を、こんな時だからこそか、今までで一番美しいと彼は思った。
 跪き、目を閉じる。首に、刃の縁を押し当てられても、少女は眉一つ動かさずにいた。

 ひと月前、彼は王宮の牢屋に呼ばれた。そこが仕事場であった──彼の生業は、代々続く執行人。通常なら公開である罪人への刑を、様々な事情により人知れず行うのが役目。
 「今日は、この娘だ」
 牢屋の番人に引き合わされたのは、まだ十代とおぼしき若い娘。どう見ても、罪を犯すような人間には見えない、無垢さと純真さを纏っていた。
 「両親が異教を信仰していてな。他の家族はすでに処刑を済ませたが、若い娘の刑が好奇の目に触れるのは忍びない、と王妃様が仰せでな。お前に任せることになった」
 異教とは、また。宗教における罪は問答無用で斬首刑、そして連座制と決まっている。
 だがこの少女を見る限り、あるいは両親に巻き込まれただけであるかもしれない。わずかに同情の念を感じたが、すぐに振り払った。執行人に余計な情は必要ない。
 頼むぞ、と番人が去って行き、部屋には彼と少女だけが残された……刑を、執行するための地下室に。
 中央に置かれた椅子に座ったままの少女に、歩み寄る。伏せていた顔を上げ、こちらを見るその双眸は、黒。薄暗い、照明の灯がひとつだけの部屋の中でも、輝いて見えた。
 だから、余計な迷いが、新たな同情心が生まれたのか。
 「……何か、願いはないか」
 尋ねると、少女は首を傾げる。「極刑が決まった者には、最後の願いを言う権利が与えられている。勿論無理な場合もあるが、可能な限りは叶えてやるのも執行人の役目だ」
 嘘ではなかった。少女の驚きぶりを見ると、あの番人はそのことを話さなかったようだが。異教徒などにわざわざ慈悲をかけてやることはない、と考えたのか。国教の長が国王であり、政教一致であるこの国の民ならば、そういった認識でも無理はないが。
 少女が、何かを言ったように聞こえた。
 「なんだ?」
 「故郷に、行きたいです……行けるのなら」

 少女が願った故郷とは、国境外れの小さな村であった。両親は多少の領地を持った下級貴族で、その村から領地は遠くはないが近くもない。要するに領地外の場所である。
 「私は、養女なんです。本当の両親は貧乏で私を育てられなくて、里子に出したと聞きました。巡り巡って、お父様とお母様の元でお世話になることになって」
 そう話しながら、懐から出したのは、一通の手紙。
 「これが、唯一の両親の思い出です。私が十五になった年に、人伝に届いて」
 大切そうに手紙を包み込む両手は、細くて小さかった。

 旅するにあたり、少女は、長い黒髪を惜しむことなく切り落とした。十七になったばかりという話だったが、少年のような短髪になると十三・四程度に幼くなる。
 そして、長い髪が無くなったことで、顔の輪郭がはっきりと浮き上がって見えるようになった。男とは明らかに違う、なめらかな頬の線が。

 道中、少女はほとんど要求を口にすることはなかった。
 数少ない機会が、行き会った町での、興行師の公演。一度も見たことがないと言った。
 「領地に、そういう連中は来なかったのか。祭りとかで」
 「……私は女だし、外をうろついてはいけないと言われて、館から出たことはありませんでした。館で何か催された時でも、私は見せてもらえませんでしたし」
 寂しそうな少女の表情から推測するに、あまり、可愛がられて育ったとは言えないようだ。生まれが庶民のせいなのか。かすかに憤りを覚えると、少女は敏感に察したのか、さらに言葉を続けた。
 「でも、引き取ってくれたことには、感謝しています。でなければ私は、こういう場所に売られていたかもしれませんし……そういう人生も、もしかしたら楽しかったかもしれませんけどね」
 ふふ、と笑った少女の顔は、幼さが嘘のように、大人びて感じられた。

 たどり着いた村は、廃村ではないかと思うほどに寂れていた。朝に到着早々、数軒ある家を訪ねて回り、少女の両親の居場所を聞き出して向かう。
 行きついたのは、墓地であった。並び立つ墓石の中から、手紙の差出人の名を頼りに、目的の墓を探し当てた。朝露に濡れた二つの墓石の前で、少女は祈った。その祈りは異教のものではなく、国の宗教の作法と寸分も変わらなかった。
 祈りを終え、手にした火打石で火を起こし、少女は手紙を燃やす。古い手紙はたちまち灰になった。
 「──これで、思い残すことはありません。どうぞ貴方の役目を果たしてください」

 この刃を、力を込めて引けば、事は終わる。一瞬のことだ。
 少女は静かにその時を待っている。跪き、祈りの手を組んで。
 ──彼の役目は、もはやただひとつ。
 ざっ、と風が鳴った。
 短かった少女の髪が、さらに短く切られている。髪の欠片が舞う中、少女は呆然と彼を見た。
 「来る途中に、女子修道院があっただろう。そこへ行け」
 「……何故」
 「理由はない。……ただ、刑を行う気が無くなった。それだけだ」
 ただし二度目はないと思え、次に会えば必ず斬る。
 そう言い残し、彼は墓地を去った。少女を置いて。

 しばらく後、国境に近い地方の女子修道院を、一人の娘が訪れた。娘は敬虔な心と真摯な労働を高く評価され、のちには修道院長を務めた。
 執行人であった彼の行方は、分からない。逃亡の旅を最期まで続けたとも、何十年か後にある修道院に厄介になり、雑用係の下男として生涯を終えたとも語られている。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第122回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が6回目の参加。初めて、お題全部を使いました。
ひそかに温めている、架空世界ファンタジーネタから流用して書いてみました。……本来、中編予定のネタなので、いろいろ中途半端感がすごいですね(爆)……いつか、もっとちゃんとした形にしたいです。

2020年7月11日 (土)

第121回2代目フリーワンライ企画/2020.7.11

使用お題:今日の星占いで一位
タイトル『恋人たちの星占い - the horoscope of lovers -』

 若干まだ寝とぼけながら起きていくと、テレビを観ていた彼女が振り返った。
 「あ、おはよう。朝ごはんできてるよ」
 匂いで予想はしていたものの「おや」と思う。まだ6時前、あと30分は遅くとも充分に間に合うはずなのだが。そう考えたところで思い出した。
 「……あーそっか、今日から研修か」
 二人そろって新入社員となった4月以降、なんやかやと新人特有の予定が組み込まれていて忙しい。暦はすでに6月だが、彼女の会社では、入社1年目を対象とした営業所での研修が、今日からの1週間行われると聞いていたのだ。それをすっかり忘れていた。
 「うんそう。7時半集合だから、あと20分くらいで出なきゃいけなくて」
 「ゆうべ、悪かったな」
 と言うと、彼女は一拍置いた後、赤面する。昨日は日曜日。いつもなら会った後、彼女の部屋があるマンションまで送ってゆくのだが、……なんというか、自分が昨夜は妙に盛り上がってしまって、彼女を帰さなかった。結果、泊めてしまった上に、あまり寝させなかったような気がする。いや、記憶をたどる限り、間違いなくそうだろう。
 「…………いいよ、私も、断らなかったし」
 じんわりと流れた多少の気まずさを、テレビからの陽気なメロディが断ち切った。
 『では、今日の星占い!』
 なんとなく合わせている朝の情報番組で、正時の前に必ず出てくる星占いコーナー。二人同時に、ぱっと画面を見る。
 『今日の一位は、さそり座です。やること全部がうまくいく日。ただし油断は禁物ですよ』
 彼女と顔を見合わせて、くすっと笑った。全部が上手くいくのに油断が禁物とは、ちょっと矛盾してはいなかろうか。
 『ラッキーカラーは緑、相性がいいのは双子座の人!』
 ナレーションはそう言って、次の星座へと話題を移す。彼女に親指を立てて見せると、彼女も同じ仕草で返した。二人とも星座はさそり座、ついでに言えば同じ日が誕生日である。
 「なあ、こういうのってさ」
 「え?」
 「星占い。相性がいい星座、同じ星座って言われなくない?」
 「……あー、そういえば聞いたことないかも」
 「だろ」
 そういえばそうだよね、ともう一度つぶやき、彼女はうんうんとうなずいている。その、何気ない話題であっても真面目に受け止めて考える姿は、実に彼女らしい。そういえば11月19日生まれは「性格が真面目で素直」という文章を、どこか何かで見たような気もする。
 「ま、でも」
 言いながら、ローテーブルの前に座る彼女の、すぐ後ろに膝をついた。
 「当たる占いばっかじゃないもんな。同じ星座だって相性いい時はいいし」
 後ろから腕を回して抱き寄せると、彼女はまた一拍置いた後、今度は「えっ」と慌てた声を出す。
 「な、なに。どういう意味」
 「こういう意味」
 ちょっと振り返った彼女の顔を固定し、唇を近づけた。
 ──1.5秒ののち。
 「で、電車混むといけないから、早めに出る。行ってくるね」
 こちらを押しのける勢いで立ち上がり、バタバタと彼女は出勤準備を始めた。
 付き合って何年経っても、照れ屋が治らない彼女。からかいすぎただろうか、と少しだけ反省する。あくまでもほんの少しだが。
 「じゃあ、行ってきます。悪いけど片付けよろしくね」
 「オッケー、気をつけてな」
 うん、とうなずいた彼女が、荷物も服装も全部そろえているはずなのに、なぜか玄関で静止している。ちらちらとこちらを見ながら。
 「どうした?」
 実は忘れ物でもあるのか、と近づくと、腕を引かれた。予期せぬ力で体ごと、必然的に顔も彼女に近づいた時、ふわりとした感触を唇に感じる。
 「────」
 「──、行ってきますっ」
 顔を真っ赤にし、早口で言い置いて、彼女は今度こそ出かけていった。
 ……彼女が、自分からキスしてくるなんて珍しい。
 今日は全てがうまくいく日、という占いは、どうやら当たっているようだ。こみあげてくるニヤニヤ笑いが、しばらくはおさまりそうにない。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第121回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が5回目の参加。
拙作『anniversaire』シリーズの、主人公カップルを用いて書きました。ちゃんとした恋人同士になるには年月を要した二人ですが、なってからはおおむね、こんな感じでいちゃついている二人です(笑)

2020年7月 4日 (土)

Twitter300字SS/お題「橋」

タイトル「橋渡しの宿命」

「はっきりしてよ。好きなんでしょ?」
この期に及んで、幼なじみのあいつは怖気づいている。告白なんてしたことがないから、その行為自体が怖いのだ。男のくせにだらしない。
「ちゃんと言わないと、話はなかったことになるわよ」
「そ、それは」
「なら、ちゃんと言うの。好きだって」
半ば脅すように迫り、やっと「……好きだよ」と言わせた。やれやれ。
「──なんだって。聞こえた?」
校舎の陰に呼びかけると、私の親友が恥ずかしそうに出てきた。
「じゃ、後は二人でね」
照れまくっている二人を置いて、邪魔者は消える。
……あいつと親友が両想いなのは、前から分かっていたこと。これでいいんだ。
それでも、行き所のない心は、勝手に涙になった。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
数か月ぶりに単発作品で書きました。……やっぱり、単発で書くと、どうしてか切ない話になっちゃいますねー(苦笑)

« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »