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2020年7月18日 (土)

第122回2代目フリーワンライ企画/2020.7.18

使用お題:全部
   眉一つ動かさず
   おもいでは灰となり
   サーカスのテント
   二度目はないと思え
   朝露に濡れて
タイトル『ある執行人と少女の物語』

 「……覚悟はいいか」
 「はい」
 真っすぐにこちらを見上げる少女の瞳を、こんな時だからこそか、今までで一番美しいと彼は思った。
 跪き、目を閉じる。首に、刃の縁を押し当てられても、少女は眉一つ動かさずにいた。

 ひと月前、彼は王宮の牢屋に呼ばれた。そこが仕事場であった──彼の生業は、代々続く執行人。通常なら公開である罪人への刑を、様々な事情により人知れず行うのが役目。
 「今日は、この娘だ」
 牢屋の番人に引き合わされたのは、まだ十代とおぼしき若い娘。どう見ても、罪を犯すような人間には見えない、無垢さと純真さを纏っていた。
 「両親が異教を信仰していてな。他の家族はすでに処刑を済ませたが、若い娘の刑が好奇の目に触れるのは忍びない、と王妃様が仰せでな。お前に任せることになった」
 異教とは、また。宗教における罪は問答無用で斬首刑、そして連座制と決まっている。
 だがこの少女を見る限り、あるいは両親に巻き込まれただけであるかもしれない。わずかに同情の念を感じたが、すぐに振り払った。執行人に余計な情は必要ない。
 頼むぞ、と番人が去って行き、部屋には彼と少女だけが残された……刑を、執行するための地下室に。
 中央に置かれた椅子に座ったままの少女に、歩み寄る。伏せていた顔を上げ、こちらを見るその双眸は、黒。薄暗い、照明の灯がひとつだけの部屋の中でも、輝いて見えた。
 だから、余計な迷いが、新たな同情心が生まれたのか。
 「……何か、願いはないか」
 尋ねると、少女は首を傾げる。「極刑が決まった者には、最後の願いを言う権利が与えられている。勿論無理な場合もあるが、可能な限りは叶えてやるのも執行人の役目だ」
 嘘ではなかった。少女の驚きぶりを見ると、あの番人はそのことを話さなかったようだが。異教徒などにわざわざ慈悲をかけてやることはない、と考えたのか。国教の長が国王であり、政教一致であるこの国の民ならば、そういった認識でも無理はないが。
 少女が、何かを言ったように聞こえた。
 「なんだ?」
 「故郷に、行きたいです……行けるのなら」

 少女が願った故郷とは、国境外れの小さな村であった。両親は多少の領地を持った下級貴族で、その村から領地は遠くはないが近くもない。要するに領地外の場所である。
 「私は、養女なんです。本当の両親は貧乏で私を育てられなくて、里子に出したと聞きました。巡り巡って、お父様とお母様の元でお世話になることになって」
 そう話しながら、懐から出したのは、一通の手紙。
 「これが、唯一の両親の思い出です。私が十五になった年に、人伝に届いて」
 大切そうに手紙を包み込む両手は、細くて小さかった。

 旅するにあたり、少女は、長い黒髪を惜しむことなく切り落とした。十七になったばかりという話だったが、少年のような短髪になると十三・四程度に幼くなる。
 そして、長い髪が無くなったことで、顔の輪郭がはっきりと浮き上がって見えるようになった。男とは明らかに違う、なめらかな頬の線が。

 道中、少女はほとんど要求を口にすることはなかった。
 数少ない機会が、行き会った町での、興行師の公演。一度も見たことがないと言った。
 「領地に、そういう連中は来なかったのか。祭りとかで」
 「……私は女だし、外をうろついてはいけないと言われて、館から出たことはありませんでした。館で何か催された時でも、私は見せてもらえませんでしたし」
 寂しそうな少女の表情から推測するに、あまり、可愛がられて育ったとは言えないようだ。生まれが庶民のせいなのか。かすかに憤りを覚えると、少女は敏感に察したのか、さらに言葉を続けた。
 「でも、引き取ってくれたことには、感謝しています。でなければ私は、こういう場所に売られていたかもしれませんし……そういう人生も、もしかしたら楽しかったかもしれませんけどね」
 ふふ、と笑った少女の顔は、幼さが嘘のように、大人びて感じられた。

 たどり着いた村は、廃村ではないかと思うほどに寂れていた。朝に到着早々、数軒ある家を訪ねて回り、少女の両親の居場所を聞き出して向かう。
 行きついたのは、墓地であった。並び立つ墓石の中から、手紙の差出人の名を頼りに、目的の墓を探し当てた。朝露に濡れた二つの墓石の前で、少女は祈った。その祈りは異教のものではなく、国の宗教の作法と寸分も変わらなかった。
 祈りを終え、手にした火打石で火を起こし、少女は手紙を燃やす。古い手紙はたちまち灰になった。
 「──これで、思い残すことはありません。どうぞ貴方の役目を果たしてください」

 この刃を、力を込めて引けば、事は終わる。一瞬のことだ。
 少女は静かにその時を待っている。跪き、祈りの手を組んで。
 ──彼の役目は、もはやただひとつ。
 ざっ、と風が鳴った。
 短かった少女の髪が、さらに短く切られている。髪の欠片が舞う中、少女は呆然と彼を見た。
 「来る途中に、女子修道院があっただろう。そこへ行け」
 「……何故」
 「理由はない。……ただ、刑を行う気が無くなった。それだけだ」
 ただし二度目はないと思え、次に会えば必ず斬る。
 そう言い残し、彼は墓地を去った。少女を置いて。

 しばらく後、国境に近い地方の女子修道院を、一人の娘が訪れた。娘は敬虔な心と真摯な労働を高く評価され、のちには修道院長を務めた。
 執行人であった彼の行方は、分からない。逃亡の旅を最期まで続けたとも、何十年か後にある修道院に厄介になり、雑用係の下男として生涯を終えたとも語られている。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第122回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が6回目の参加。初めて、お題全部を使いました。
ひそかに温めている、架空世界ファンタジーネタから流用して書いてみました。……本来、中編予定のネタなので、いろいろ中途半端感がすごいですね(爆)……いつか、もっとちゃんとした形にしたいです。

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