2020年9月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
無料ブログはココログ

« Twitter300字SS/お題「泳ぐ」 | トップページ | 第126回2代目フリーワンライ企画/2020.8.15 »

2020年8月 1日 (土)

第124回2代目フリーワンライ企画/2020.8.1

使用お題:全部
   物欲しげな顔
   使い道がない
   忘れたころにやってくる
   破裂音
   生まれてこの方
タイトル『不意打ちの出来事』

 生まれてこの方、奴を男として意識したことはない。
 ……そのはず、だったのだけど。

 はああ、と今日何度目だかわからないため息をついた。隣の席の幼なじみが嫌そうな顔をする。
 「うっとうしいな。やめろよ」
 「しょうがないじゃない、気分が上がらないんだもの」
 「だからってなあ、今日21回目だぞ」
 「数えてんの!?」
 「そう言わせたいから」
 にやにやと、してやったりと顔いっぱいに表して、奴は笑う。むかむかしてきたので窓の外に視線を移した。
 まったく、と今度は呆れたような声。
 「おまえもさあ、いいかげん男を見る目養えよ。ろくなのと付き合ってこなかったろ」
 「大きなお世話」
 反射的にそう返したけど、こればかりは、奴の言う通りではある。中学でできた初カレには浮気されたし(告白してきたのは向こうだったにもかかわらず)、その後も、マザコンだったりモラハラ男子だったり、高校2年の今まで、およそまともな彼氏ができたことがない。つい昨日も、いい感じになりそうだった男子が最初からふたまた狙いだったとわかって、付き合うのを中止したばかりだ。
 「だってどっちも好きなんだもん」とのたまう相手を平手打ちして、ちょっとはすっきりしたけど簡単に気は晴れてくれない。
 はあ、と幼なじみによれば22回目のため息をついた時、授業開始のチャイムが鳴った。

 「何が『どっちも好きなんだもん』よ。人を馬鹿にするなっての」
 「まあ、そいつのろくでもなさは腹立つとしてさ。高取くんの言うことはもっともだと思うよ」
 「ええー。初音まであいつの肩持つの」
 「別にそういうわけじゃないけど、言ってることは合ってるでしょ」
 「…………うん、まあね」
 「自覚はあるんだから、もうちょい気をつけた方がいいよ」
 早紀は面食いだしねえ、と小学校以来の親友はしみじみと実感を込めて言う。確かに、初恋の相手から今に至るまで、好きになった男子は軒並み顔は良かった。
 「まあ、だったらどうせなら、身近に目を向けたら?」
 「身近?」
 「いるじゃない、顔のいい男子が」
 「……まさか、あいつ?」
 耳を疑った。……言われてみれば、悪くはないと思うけど。そう初音に言うと驚かれる。
 「気づいてなかったの? ていうかあんたの目、どうなってんの」
 「どういう意味よ」
 「うわ、本気で知らないんだ。高取くんに告白してる女子が何人いるのか」
 すごいんだよ、と初音は説明してくれるけど、物好きだな、という感想しか思い浮かばない。
 「なるほどね、灯台下暗しってやつか。まあいいけど、ならこの機会に真面目に考えてみたら。見た目は合格だし、誰にでもけっこう優しいし」
 「優しい?」
 寄ると触ると嫌味ばかり言う、あいつが?
 「それは早紀が相手だからでしょ。……いやほんと、有名なんだからね。高取くんには告白しても無駄だから、っていう話」
 「なんでよ」
 「断られるからに決まってるじゃない。彼には一途に想う相手がいるって、もっぱらの噂だよ」
 そこで初音は、じーっとこちらを見る。何が言いたいのかは鈍くともわかった。
 「まっさか。そんなわけないじゃない」
 あるはずない。私が奴を男と思っていないのと同じように、奴だって私を女だとは思っていないはずだ。
 やれやれ、と初音は両手を広げて、空を仰ぐ仕草をした。
 「そんなこと言ってると、忘れた頃に、なんか起きるよ」

 その日の帰り道。
 「なんで、ついてくるのよ」
 「俺んちもこっちだもん」
 「そんなことわかってるわよ、近所なんだから。部活はどうしたのよ」
 「顧問が出張で休み」
 「……あっそ」
 ああ言えばこう言う。子供の時から変わらない憎らしさに、ため息をつくのを努力してこらえた。また数えられてはたまらない。
 「ハンカチ出てんぞ」
 「え、あ。やば」
 制服のスカートのポケットから落ちそうになっていたハンカチを突っ込むと、ポケットの奥にある何かに手が当たった。
 取り出して、思わず顔をしかめる。「何それ」と奴が言ったけど、答える気にならなかった。
 ……昨日別れた(という言い方は正確ではないかもだけど)男子が、いつだったかくれたキーホルダー。袋に入れずそのままで渡されて、嬉しいけどどうしようかなと思って、とりあえず落とさないようにポケットに入れたんだった。
 どうしよう、これ。立ち止まり、弱り切った気分でキーホルダーを見ていると、横からの視線に気づいた。
 奴が物欲しげな顔で、こちらを見ている。もしかして、こんな使い道のなさそうな物が欲しいのだろうか。
 「要るの、これ。欲しいならあげるけど」
 やつは答えない。ただキーホルダーと、私を、しつこいぐらいに見つめている。
 とりあえず渡しておくか、と奴に左手を差し出したら、いきなり引っ張られた。
 「─────」
 「─────」
 ──ぱん、と大きな破裂音がして、我に返った。道行く人たちがざわざわと騒ぎ始める。
 どうやら近くの車のタイヤがパンクしたらしい。そうだとわかったのも周りの人が話していたからで、自分で確認する余裕はなかった。
 ……今、何が起きた? 差し出した手をいきなり引っ張られて、奴の顔が近づいてきて。
 「…………嘘でしょ」
 「何が嘘だよ」
 「だって、今」
 キスされた。ファーストキスではなかったけど、それ以上に衝撃的な。こんな道端で、人の目がある場所で。まさか。
 まじまじと奴の顔を見ると、ふい、と目をそらされた。心持ち、顔が赤いような気がする。
 「……おまえがなんにも、わかってないからだよ」
 そう一言を残して、奴は去っていった。ものすごい速足で、一度も振り返らずに。
 残された私はと言えば、ただただ、ひたすら、呆然としていた。
 「嘘でしょ?」
 もう一度つぶやいて、そこでようやく、頭に血がのぼってきた。まさかまさかまさか。
 初音が言ったことが、正しかったってこと?
 『そんなこと言ってると、忘れた頃に、なんか起きるよ』
 今日の一言が、こんな形でこんなに早く現実化するとは、たぶん初音も思っていなかっただろう。
 ……明日からいったい、どうしよう。かつてない混乱に放り込まれる予感がして、仕方なかった。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第124回への参加作品です。
毎週土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が8回目の参加。前々回、前回に引き続き、お題全部を使いました。
現代日本、高校生主人公の恋愛ものです。……そしてまたまた使ってしまった、幼なじみ設定。なんでこんなにしょっちゅう使っちゃうんでしょうねえ、まあ要するに好きなんでしょうねえ(笑)

« Twitter300字SS/お題「泳ぐ」 | トップページ | 第126回2代目フリーワンライ企画/2020.8.15 »

2代目フリーワンライ企画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« Twitter300字SS/お題「泳ぐ」 | トップページ | 第126回2代目フリーワンライ企画/2020.8.15 »