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2020年8月 1日 (土)

Twitter300字SS/お題「泳ぐ」

タイトル「人波の向こうに」

3月1日。卒業式の構内は普段より人が多く賑やかで、華やいでいる。
講堂での式も学科ごとの卒業証書授与も終わり、そこかしこに記念写真を撮り合う学生や保護者。中に、ひときわ学生が集まる一角があった。大学一の人気者に今日が最後だからと話しかける、辺りをはばからず想いを伝えようとする女子学生たち。だが彼の視線が向くのはただ一人。泳ぐように人波をかき分け、最愛の彼女のもとへたどり着く。
 「卒業おめでとう」
 「おめでとう」
袴姿の可憐な彼女に応じ、視線もかまわず、額にキスした。きゃあああ、と歓声と悲鳴の混じった周囲の叫びに、彼女は顔を赤くして身を縮める。可愛らしく照れる様子に、彼は愛おしさがまた深まるのを感じた。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
既刊『anniversaire』シリーズからの派生作品、後日談となる小話。季節的には外れていますが(笑)、大学の卒業式当日の一幕です。特に意図したわけではないのですが、微妙に彼目線でも彼女目線でもない、純粋な三人称に近い感じになりました。

(『anniversaire』シリーズは、novelist.jp、小説家になろう、エブリスタ、pixiv、カクヨムにて掲載しております。pixivでは「matsuya0510」、それ以外では「まつやちかこ」にてユーザー検索の上、作品一覧からご覧ください)
(※各所、R-18またはR-15扱いとしておりますので、ご確認・ご了承の上でご覧ください)

2020年7月 4日 (土)

Twitter300字SS/お題「橋」

タイトル「橋渡しの宿命」

「はっきりしてよ。好きなんでしょ?」
この期に及んで、幼なじみのあいつは怖気づいている。告白なんてしたことがないから、その行為自体が怖いのだ。男のくせにだらしない。
「ちゃんと言わないと、話はなかったことになるわよ」
「そ、それは」
「なら、ちゃんと言うの。好きだって」
半ば脅すように迫り、やっと「……好きだよ」と言わせた。やれやれ。
「──なんだって。聞こえた?」
校舎の陰に呼びかけると、私の親友が恥ずかしそうに出てきた。
「じゃ、後は二人でね」
照れまくっている二人を置いて、邪魔者は消える。
……あいつと親友が両想いなのは、前から分かっていたこと。これでいいんだ。
それでも、行き所のない心は、勝手に涙になった。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
数か月ぶりに単発作品で書きました。……やっぱり、単発で書くと、どうしてか切ない話になっちゃいますねー(苦笑)

2020年6月 6日 (土)

Twitter300字SS/お題「鍵」

タイトル「2本から1本に」

彼女に合鍵を渡したのはいつだったろう。
たぶん、就職してからだと思う。お互い仕事で忙しくて学生時代のように自由には会えなくなったから、いつでも家には来られるようにと思って。
その後、彼女の家の鍵ももらって、この数年間、2本の鍵を持つのが日常だった。
──それが、今日からは二人とも、1本になる。
「これ、買ってきたんだけど」
少し照れくさそうに、青い勾玉のキーホルダーを差し出された。彼女の鍵にはすでに、同じ形の赤い勾玉。結び付けた後の、目の前に掲げてみる仕草が重なった。顔を見合わせ、ふふ、と笑い合う。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
座ったまま、互いにぺこりとお辞儀。同じ家で暮らし始める、二人の儀式。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
既刊『anniversaire』シリーズからの派生作品、後日談となる小話。社会人3年目の終わり頃、同棲初日の光景(『evergreen』ラストの翌日)をイメージして書きました。

(『anniversaire』シリーズは、novelist.jp、小説家になろう、エブリスタ、pixiv、カクヨムにて掲載しております。pixivでは「matsuya0510」、それ以外では「まつやちかこ」にてユーザー検索の上、作品一覧からご覧ください)
(※各所、R-18またはR-15扱いとしておりますので、ご確認・ご了承の上でご覧ください)

2020年5月 2日 (土)

Twitter300字SS/お題「書く」

タイトル「書けない気持ち」

突然の休講で、1時限分の時間が空いた。まだ午前中、サークルの部屋に行こうかとも考えたが、あまり気が乗らない。手近のベンチに座り、何をするでもなく携帯をいじる。
ふと、メールソフトを起動した。新規作成画面を開き、最近知ったアドレスを呼び出して入力。
……そこからが、進まない。何と書き始めればいいのか。
「元気?」ありきたりだ。「用はないけどどうしてるかなと」書きづらい。

──「会いたい」。

伝えたい本心はあるけれど、正直に書くのは憚られる。彼女の戸惑う顔が目に浮かんでしまうから。
ため息をついて上げた視線の先に。
「……あ」
言葉で書くよりも頭に思い描くよりも、立ち上がり駆け寄った行動に、如実に気持ちが表れた。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
ちょっと久々に、といいますか、既刊『anniversaire』シリーズからの派生作品です。付き合い始める前、大学1年の5~6月頃のイメージで書きました。

(『anniversaire』シリーズは、novelist.jp、小説家になろう、エブリスタ、pixiv、カクヨムにて掲載しております。pixivでは「matsuya0510」、それ以外では「まつやちかこ」にてユーザー検索の上、作品一覧からご覧ください)

2020年4月 4日 (土)

Twitter300字SS/お題「鞄」

タイトル「ランドセルに祈る」

リビングに置いてある新しいランドセル。ピカピカの輝きが、今は少し目に痛く感じる。
もうすぐ小学校の入学式。だが晴れの機会を祖父母は今回見られない。式に参加できるのは新入学の児童と、同居家族のみと言われている。離れて暮らす実両親や義両親は参加できないのだ。
流行病による波紋はいまだ消える気配を見せない。新学期もいつから授業が出来るのかわからない。いつになれば、子供が友達と普通に会えるようになるのか。
仕方ないので、ランドセルをしょった子供の写真や動画を毎日送っている。双方喜んでくれるが本当は式に出たいだろう。
ランドセルとともに跳ね回る子供を見て祈る。騒動が早く終息し、普段の生活が戻ってきますようにと。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
今回も単発作品を書きました。創作というよりは、私小説みたいになってしまいましたが……よろしければご意見ご感想など、頂けますと幸いです。

2020年3月 7日 (土)

Twitter300字SS/お題「余り」

タイトル「余り姫の伝説」

その姫は「余り姫」と呼ばれた。兄二人姉三人の末に生まれ、王位継承にも政略結婚にも関わらぬ余り物であった故に。兄妹の中で最も平凡な容姿、それに反する明晰な頭脳と胆力。魔術にも通じていたとされ、姉の内、二人が嫁いだ先で若くして身罷ったのは、彼女らを羨む姫の呪いと噂された。
三十路を前に姫は、次姉の夫であった、子を持たぬ老王に嫁した。間もなく王は崩御し、跡を継いだ姫は「魔女王」と称された。

「などと、歴史書には書かれるかも知れませんね」
「言わせておきなさい。真実は私達が知っていれば良いことだ」
寝台の王は穏やかに笑む。政務と話し相手の傍ら、薬草の知識に長けた妃は、持病の痛みを和らげる薬湯の調合に勤しんだ。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
今回は単発作品を書きました。300字では初の架空世界もの。……それっぽくしてみたつもりですが、いかがでしたでしょうか。よろしければご意見ご感想など、頂けますと幸いです。

2020年2月 1日 (土)

Twitter300字SS/お題「包む」

タイトル「幸せを包む仕事」

「お包みしましょうか」
「お願いします」
百貨店の宝飾品売場に転職して半年。ラッピングの腕も上達して、ほぼ失敗なくできるようになった。買う人の幸福も包んでいる気がする、楽しい作業だ。
ラッピングお願いしまーす、の声に応じると、また一組のカップルが。
「────」
 交わした視線の意味が気づかれていないことを願った。接客用の笑顔で、包んだ小箱を手渡しながら「おめでとうございます」と言う。中身が婚約指輪として売れる商品だと知っていたから。
「ありがとうございます!」
 嬉しそうな女性の隣で軽く会釈し、くるりと背を向けた姿。見送ってからバックヤードに行き、少しだけ泣いた。私が贈られなかった指輪をもらう彼女への羨望で。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
今回は単発作品を書きました。……前に「演じる」で書いた時にも思いましたが、どうして単発で書くと悲恋ものになるんだろうか、私(苦笑)
よろしければご感想・ご意見など、一言でも頂けますと幸いです。

2019年12月 7日 (土)

Twitter300字SS/お題「祝う」

タイトル「お宮参りの思い出」

お宮参りの写真が出来上がってきた。初孫だから、と両親が写真館での撮影を希望したので、なかなか大変な1日だった。皆の都合を合わせると前撮りの余裕がなくて、神社へのお参りと同じ日にせざるを得なかったから。
けれど過ぎてしまえば良い思い出。
この神社雰囲気良かったよね、と写真を見ながら妻が言う。
──本殿の中、ご祈祷の時間。お祓いを皆で受けて、祝詞をあげてもらった。子供の名前が厳粛に詠み上げられるのを聞いて、ああ健やかに育ってほしい、そのためには自分たちがしっかり守らねばと感じたのだ。
「どうしたの、神妙な顔して」
「……なんでもない。これ、食事会の?」
別の写真を指差して、かすかに浮かんだ涙をごまかす。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
拙作のどの登場人物、とは特に決めておりませんが(単発でもいけそうですし)、敢えて言うならば『anniversaire』カップルのイメージかな、と。

(『anniversaire』シリーズは、novelist.jp、小説家になろう、エブリスタ、pixivにて掲載しております。pixivでは「matsuya0510」、それ以外では「まつやちかこ」にてユーザー検索の上、作品一覧からご覧ください)

2019年11月 2日 (土)

Twitter300字SS/お題「窓」

タイトル「窓越しの遭遇」

珍しく講義に遅れて教室に入ったら、窓際の席しか空いていなかった。これも珍しい。
座ると、すっかり秋めいた日差しを柔らかく感じる。疲れていたら眠ってしまうかも、などと思うほど心地良い。
講師の話が途切れ板書に移ったところで、ふと窓の外に視線をやり、軽く目を見張る。
彼女が、友達と建物側の道を通るところだった。
さらに何の偶然か、彼女がふいにこちらを見た。自分に気づき、嬉しそうに手を振る。
思わず振り返した時、名前を呼ばれた。講師に見咎められたようで、周りからも不審な目が向けられている。振られた質問には何とか答えたが気まずさは拭えない。それでもなお、彼女との思いがけない遭遇の嬉しさの方が、上回っていたけど。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
拙作『anniversaire』シリーズ(R-18描写あり)のカップルを用いて書きました。時間軸は大学2年の秋、心が通じ合って少し後くらいかな、という感じです。

(『anniversaire』シリーズは、novelist.jp、小説家になろう、エブリスタ、pixivにて掲載しております。pixivでは「matsuya0510」、それ以外では「まつやちかこ」にてユーザー検索の上、作品一覧からご覧ください)

2019年10月 5日 (土)

Twitter300字SS/お題「夢」

タイトル「将来の夢」

将来の夢を作文に、との宿題を子供が持ち帰った。
悩む子供と一緒に考える中で、自分の夢は何だったろうかと思い返す。
お菓子屋、歌手、フライトアテンダント、お嫁さん。同級生の華やかな夢の中で、私の「学校の先生」はあまり目立たなかった。担任にはすごく誉められたけど。
大学まで勉強はがんばったものの、残念ながら縁が無くて、職に就くことはできなかった。同じ教職課程を取っていた同級生とは卒業前に付き合うことになり、縁付いて結婚して今に至る。
玄関の扉が開く音のすぐ後に、ただいまの声。子供が駆けて迎えに出ていく。
はしゃぐ子供を片手で抱き、にっこり笑う夫。今の私の夢は、この穏やかで愛しい生活が、いつまでも続くことだ。


注釈:Twitter上の小説企画「Twitter300字SS」参加作品です。
今回も単発作品なのですが、既存シリーズの後日談風にも取れる感じで書いてみました(設定は違いますが)。読んでくださる皆様の、お好きな方でご解釈くださいませ。
よろしければご感想・ご意見など、一言でも頂けますと幸いです。