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2020年8月 1日 (土)

第124回2代目フリーワンライ企画/2020.8.1

使用お題:全部
   物欲しげな顔
   使い道がない
   忘れたころにやってくる
   破裂音
   生まれてこの方
タイトル『不意打ちの出来事』

 生まれてこの方、奴を男として意識したことはない。
 ……そのはず、だったのだけど。

 はああ、と今日何度目だかわからないため息をついた。隣の席の幼なじみが嫌そうな顔をする。
 「うっとうしいな。やめろよ」
 「しょうがないじゃない、気分が上がらないんだもの」
 「だからってなあ、今日21回目だぞ」
 「数えてんの!?」
 「そう言わせたいから」
 にやにやと、してやったりと顔いっぱいに表して、奴は笑う。むかむかしてきたので窓の外に視線を移した。
 まったく、と今度は呆れたような声。
 「おまえもさあ、いいかげん男を見る目養えよ。ろくなのと付き合ってこなかったろ」
 「大きなお世話」
 反射的にそう返したけど、こればかりは、奴の言う通りではある。中学でできた初カレには浮気されたし(告白してきたのは向こうだったにもかかわらず)、その後も、マザコンだったりモラハラ男子だったり、高校2年の今まで、およそまともな彼氏ができたことがない。つい昨日も、いい感じになりそうだった男子が最初からふたまた狙いだったとわかって、付き合うのを中止したばかりだ。
 「だってどっちも好きなんだもん」とのたまう相手を平手打ちして、ちょっとはすっきりしたけど簡単に気は晴れてくれない。
 はあ、と幼なじみによれば22回目のため息をついた時、授業開始のチャイムが鳴った。

 「何が『どっちも好きなんだもん』よ。人を馬鹿にするなっての」
 「まあ、そいつのろくでもなさは腹立つとしてさ。高取くんの言うことはもっともだと思うよ」
 「ええー。初音まであいつの肩持つの」
 「別にそういうわけじゃないけど、言ってることは合ってるでしょ」
 「…………うん、まあね」
 「自覚はあるんだから、もうちょい気をつけた方がいいよ」
 早紀は面食いだしねえ、と小学校以来の親友はしみじみと実感を込めて言う。確かに、初恋の相手から今に至るまで、好きになった男子は軒並み顔は良かった。
 「まあ、だったらどうせなら、身近に目を向けたら?」
 「身近?」
 「いるじゃない、顔のいい男子が」
 「……まさか、あいつ?」
 耳を疑った。……言われてみれば、悪くはないと思うけど。そう初音に言うと驚かれる。
 「気づいてなかったの? ていうかあんたの目、どうなってんの」
 「どういう意味よ」
 「うわ、本気で知らないんだ。高取くんに告白してる女子が何人いるのか」
 すごいんだよ、と初音は説明してくれるけど、物好きだな、という感想しか思い浮かばない。
 「なるほどね、灯台下暗しってやつか。まあいいけど、ならこの機会に真面目に考えてみたら。見た目は合格だし、誰にでもけっこう優しいし」
 「優しい?」
 寄ると触ると嫌味ばかり言う、あいつが?
 「それは早紀が相手だからでしょ。……いやほんと、有名なんだからね。高取くんには告白しても無駄だから、っていう話」
 「なんでよ」
 「断られるからに決まってるじゃない。彼には一途に想う相手がいるって、もっぱらの噂だよ」
 そこで初音は、じーっとこちらを見る。何が言いたいのかは鈍くともわかった。
 「まっさか。そんなわけないじゃない」
 あるはずない。私が奴を男と思っていないのと同じように、奴だって私を女だとは思っていないはずだ。
 やれやれ、と初音は両手を広げて、空を仰ぐ仕草をした。
 「そんなこと言ってると、忘れた頃に、なんか起きるよ」

 その日の帰り道。
 「なんで、ついてくるのよ」
 「俺んちもこっちだもん」
 「そんなことわかってるわよ、近所なんだから。部活はどうしたのよ」
 「顧問が出張で休み」
 「……あっそ」
 ああ言えばこう言う。子供の時から変わらない憎らしさに、ため息をつくのを努力してこらえた。また数えられてはたまらない。
 「ハンカチ出てんぞ」
 「え、あ。やば」
 制服のスカートのポケットから落ちそうになっていたハンカチを突っ込むと、ポケットの奥にある何かに手が当たった。
 取り出して、思わず顔をしかめる。「何それ」と奴が言ったけど、答える気にならなかった。
 ……昨日別れた(という言い方は正確ではないかもだけど)男子が、いつだったかくれたキーホルダー。袋に入れずそのままで渡されて、嬉しいけどどうしようかなと思って、とりあえず落とさないようにポケットに入れたんだった。
 どうしよう、これ。立ち止まり、弱り切った気分でキーホルダーを見ていると、横からの視線に気づいた。
 奴が物欲しげな顔で、こちらを見ている。もしかして、こんな使い道のなさそうな物が欲しいのだろうか。
 「要るの、これ。欲しいならあげるけど」
 やつは答えない。ただキーホルダーと、私を、しつこいぐらいに見つめている。
 とりあえず渡しておくか、と奴に左手を差し出したら、いきなり引っ張られた。
 「─────」
 「─────」
 ──ぱん、と大きな破裂音がして、我に返った。道行く人たちがざわざわと騒ぎ始める。
 どうやら近くの車のタイヤがパンクしたらしい。そうだとわかったのも周りの人が話していたからで、自分で確認する余裕はなかった。
 ……今、何が起きた? 差し出した手をいきなり引っ張られて、奴の顔が近づいてきて。
 「…………嘘でしょ」
 「何が嘘だよ」
 「だって、今」
 キスされた。ファーストキスではなかったけど、それ以上に衝撃的な。こんな道端で、人の目がある場所で。まさか。
 まじまじと奴の顔を見ると、ふい、と目をそらされた。心持ち、顔が赤いような気がする。
 「……おまえがなんにも、わかってないからだよ」
 そう一言を残して、奴は去っていった。ものすごい速足で、一度も振り返らずに。
 残された私はと言えば、ただただ、ひたすら、呆然としていた。
 「嘘でしょ?」
 もう一度つぶやいて、そこでようやく、頭に血がのぼってきた。まさかまさかまさか。
 初音が言ったことが、正しかったってこと?
 『そんなこと言ってると、忘れた頃に、なんか起きるよ』
 今日の一言が、こんな形でこんなに早く現実化するとは、たぶん初音も思っていなかっただろう。
 ……明日からいったい、どうしよう。かつてない混乱に放り込まれる予感がして、仕方なかった。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第123回への参加作品です。
毎週土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が8回目の参加。前々回、前回に引き続き、お題全部を使いました。
現代日本、高校生主人公の恋愛ものです。……そしてまたまた使ってしまった、幼なじみ設定。なんでこんなにしょっちゅう使っちゃうんでしょうねえ、まあ要するに好きなんでしょうねえ(笑)

2020年7月25日 (土)

第123回2代目フリーワンライ企画/2020.7.25

使用お題:全部
   階段の踊場
   ガリガリ
   おててつないで
   慣れないことするからだ
   バラしたのはお前か
タイトル『終業式の宣言』

 キンコンカンコーン、と鳴ったチャイムは4時半のもの。直後スピーカーから、下校時刻を知らせる音楽が流れ出す。
 「お、もうこんな時間か。よし、今日は終了ー」
 顧問の理科教師が部活の終わりを宣言する。
 「これで今年度の活動も終わりだ。西崎、ご苦労さんだったな」
 名指しでそう言われたのは、自分が進級と同時に、転校するからだ。慣れ親しんだ科学部の面子とも、この理科室とも今日でお別れ。顧問に「餞別にやろう」と手渡されたのは、中学3年生向けの理科の参考書。良い本だからしっかり勉強しろよ、とひたすら真面目な顧問らしい一言が添えられた。
 「じゃあ、他の皆はまた新学期にな。お疲れさん」
 「おつかれっしたー」
 男子ばかり、10人ほどの面々が唱和する。片付けを終えた奴からめいめい、鞄を担いで足早に出ていく中、なんやかやで最後になってしまった。再度、顧問と挨拶をして、夕日が差し込む廊下を速足で歩いた。
 3階から2階へ降り、さらに1階に続く階段の手前で、思わぬ相手に遭遇する。
 「……あ」
 「……おう」
 職員室の方向から歩いてきたのは、同じクラスの本原。幼稚園から同じ所に通っていて、小学校時代は、男子女子の対立のたび代表になっていた同士だ。だからわりと本気の口喧嘩をしたことも少なくない。
 そんな、ある意味で半分同性のような感覚でいた相手に会って、お互い若干口ごもってしまうようになったのは最近のこと。1ヵ月ちょっと前のバレンタインに、本原からチョコを渡されて以来だ。義理さえもらったことがなかったから、かなり驚いた。が、箱の中身を見た時はその比ではなかった。どれだけ鈍感でもわかるだろう、といった感じの、気合の入った手作りチョコだったのだ。
 以来、本原との間には、微妙な空気が流れている。今も、鉢合わせして立ち止まって、なんとなく、階段を下りる権利を譲り合うような仕草をしてしまっている。埒が明かない、と思いきって1段目に踏み出すと、本原もほぼ同じタイミングで足を出していた。
 ……そのまま、なりゆきで二人並んで、階段を下りていってしまう。
 踊り場の大きな窓からは、夕焼け空とは対照的に暗くなり始めた空が見えた。あのあたりに光っているのは一番星だろうか、それとも何か惑星か。
 なんて考えつつ少し足を止めていたら──急に手をつかまれて、びっくりした。見ると、本原の右手が、自分の左手を握っている。え、と本原に視線を向けると、頬が真っ赤になっている。
 「…………」
 「…………」
 つかまれた手を、一度離した。本原がバツの悪い表情になる前に、手を、つなぐ形に組み直す。本原の顔はさらに、耳まで赤くなった。たぶん、自分も同じだろう。
 手をつないだまま、残りの階段を、一歩先に行く形で一緒に下りる。何してんだろう、という疑問と、まあ別にいいか、という思いが混ざり合っていた。
 と。
 いきなり、後ろに手を引かれた。本原が立ち止まったのだと気づいて振り返り、見開いた目の視線を追って、階段下にいる人間の存在に気づいた。
 ガリガリ君、と呼ばれる坊主頭で逆光でもすぐにわかった。同じクラスの堀田だ。当然ながらというか、驚愕の表情を浮かべている。3人とも数秒間フリーズしていたのち、はっ、と一番先に我に返ったのは堀田で、こっちが声をかける前にバタバタと走って行ってしまった。

 翌朝、教室に入った途端に大騒ぎに出迎えられた。
 黒板には誰かが描いた相合傘、下にある名前は当然、自分と本原。はやし立てる男子とひそひそ会話しながらもきゃあきゃあ言い合っている女子。
 バラしたのお前だな、と人垣の中に堀田を探すと、奴はふいと横を向いて知らぬふりを決め込んでいる。
 クラスの連中が、自分が入ってきたときのようにどよめいた。振り向くと予想通り、本原が入り口で固まっている。奥さん来たぞ、と誰かの声がして、また女子が「きゃーっ」と騒ぐ。何人かの、本原の友達らしき女子は駆け寄ってきて、何かしら本原に声をかけていた。事態を把握したのか、今や涙目になっている本原。
 ……やれやれ、と思った。まったく、慣れないことをするからこうなる。
 反省を覚えつつ、覚悟を決めた。後ろへ引き返し、女子の輪の中にいる本原の手を引っ張って、二人で教壇に上がった。
 驚きの空気が広がっていくのがはっきりわかる中、宣言した。
 「堀田、お前が見た通り、そういうことだから。皆もよろしく」
 静まり返る教室。5秒後には、ひときわ大きいどよめきに満たされた。
 つないだ手をほどかないまま左を見ると、半分泣き顔の本原が、口をぱくぱくさせている。昨日並みに真っ赤な顔で。
 ──しょうがない、この顔を、可愛いと思ったんだから。
 とはいえ後のフォローがものすごく大変そうではある。それはまあ、終業式の間に急いで考えることにしよう。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第123回への参加作品です。
毎週土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が7回目の参加。前回に引き続き、お題全部を使いました。
内容は前回と違い現代もの、中学生主人公の恋愛ものです。……甘酸っぱい感じを目指してみましたが、いかがでしたでしょうか。思春期の少年少女って、想像するのはまだしも、書くのはけっこう難しいなあ(苦笑)……まだまだ勉強せねば。

2020年7月18日 (土)

第122回2代目フリーワンライ企画/2020.7.18

使用お題:全部
   眉一つ動かさず
   おもいでは灰となり
   サーカスのテント
   二度目はないと思え
   朝露に濡れて
タイトル『ある執行人と少女の物語』

 「……覚悟はいいか」
 「はい」
 真っすぐにこちらを見上げる少女の瞳を、こんな時だからこそか、今までで一番美しいと彼は思った。
 跪き、目を閉じる。首に、刃の縁を押し当てられても、少女は眉一つ動かさずにいた。

 ひと月前、彼は王宮の牢屋に呼ばれた。そこが仕事場であった──彼の生業は、代々続く執行人。通常なら公開である罪人への刑を、様々な事情により人知れず行うのが役目。
 「今日は、この娘だ」
 牢屋の番人に引き合わされたのは、まだ十代とおぼしき若い娘。どう見ても、罪を犯すような人間には見えない、無垢さと純真さを纏っていた。
 「両親が異教を信仰していてな。他の家族はすでに処刑を済ませたが、若い娘の刑が好奇の目に触れるのは忍びない、と王妃様が仰せでな。お前に任せることになった」
 異教とは、また。宗教における罪は問答無用で斬首刑、そして連座制と決まっている。
 だがこの少女を見る限り、あるいは両親に巻き込まれただけであるかもしれない。わずかに同情の念を感じたが、すぐに振り払った。執行人に余計な情は必要ない。
 頼むぞ、と番人が去って行き、部屋には彼と少女だけが残された……刑を、執行するための地下室に。
 中央に置かれた椅子に座ったままの少女に、歩み寄る。伏せていた顔を上げ、こちらを見るその双眸は、黒。薄暗い、照明の灯がひとつだけの部屋の中でも、輝いて見えた。
 だから、余計な迷いが、新たな同情心が生まれたのか。
 「……何か、願いはないか」
 尋ねると、少女は首を傾げる。「極刑が決まった者には、最後の願いを言う権利が与えられている。勿論無理な場合もあるが、可能な限りは叶えてやるのも執行人の役目だ」
 嘘ではなかった。少女の驚きぶりを見ると、あの番人はそのことを話さなかったようだが。異教徒などにわざわざ慈悲をかけてやることはない、と考えたのか。国教の長が国王であり、政教一致であるこの国の民ならば、そういった認識でも無理はないが。
 少女が、何かを言ったように聞こえた。
 「なんだ?」
 「故郷に、行きたいです……行けるのなら」

 少女が願った故郷とは、国境外れの小さな村であった。両親は多少の領地を持った下級貴族で、その村から領地は遠くはないが近くもない。要するに領地外の場所である。
 「私は、養女なんです。本当の両親は貧乏で私を育てられなくて、里子に出したと聞きました。巡り巡って、お父様とお母様の元でお世話になることになって」
 そう話しながら、懐から出したのは、一通の手紙。
 「これが、唯一の両親の思い出です。私が十五になった年に、人伝に届いて」
 大切そうに手紙を包み込む両手は、細くて小さかった。

 旅するにあたり、少女は、長い黒髪を惜しむことなく切り落とした。十七になったばかりという話だったが、少年のような短髪になると十三・四程度に幼くなる。
 そして、長い髪が無くなったことで、顔の輪郭がはっきりと浮き上がって見えるようになった。男とは明らかに違う、なめらかな頬の線が。

 道中、少女はほとんど要求を口にすることはなかった。
 数少ない機会が、行き会った町での、興行師の公演。一度も見たことがないと言った。
 「領地に、そういう連中は来なかったのか。祭りとかで」
 「……私は女だし、外をうろついてはいけないと言われて、館から出たことはありませんでした。館で何か催された時でも、私は見せてもらえませんでしたし」
 寂しそうな少女の表情から推測するに、あまり、可愛がられて育ったとは言えないようだ。生まれが庶民のせいなのか。かすかに憤りを覚えると、少女は敏感に察したのか、さらに言葉を続けた。
 「でも、引き取ってくれたことには、感謝しています。でなければ私は、こういう場所に売られていたかもしれませんし……そういう人生も、もしかしたら楽しかったかもしれませんけどね」
 ふふ、と笑った少女の顔は、幼さが嘘のように、大人びて感じられた。

 たどり着いた村は、廃村ではないかと思うほどに寂れていた。朝に到着早々、数軒ある家を訪ねて回り、少女の両親の居場所を聞き出して向かう。
 行きついたのは、墓地であった。並び立つ墓石の中から、手紙の差出人の名を頼りに、目的の墓を探し当てた。朝露に濡れた二つの墓石の前で、少女は祈った。その祈りは異教のものではなく、国の宗教の作法と寸分も変わらなかった。
 祈りを終え、手にした火打石で火を起こし、少女は手紙を燃やす。古い手紙はたちまち灰になった。
 「──これで、思い残すことはありません。どうぞ貴方の役目を果たしてください」

 この刃を、力を込めて引けば、事は終わる。一瞬のことだ。
 少女は静かにその時を待っている。跪き、祈りの手を組んで。
 ──彼の役目は、もはやただひとつ。
 ざっ、と風が鳴った。
 短かった少女の髪が、さらに短く切られている。髪の欠片が舞う中、少女は呆然と彼を見た。
 「来る途中に、女子修道院があっただろう。そこへ行け」
 「……何故」
 「理由はない。……ただ、刑を行う気が無くなった。それだけだ」
 ただし二度目はないと思え、次に会えば必ず斬る。
 そう言い残し、彼は墓地を去った。少女を置いて。

 しばらく後、国境に近い地方の女子修道院を、一人の娘が訪れた。娘は敬虔な心と真摯な労働を高く評価され、のちには修道院長を務めた。
 執行人であった彼の行方は、分からない。逃亡の旅を最期まで続けたとも、何十年か後にある修道院に厄介になり、雑用係の下男として生涯を終えたとも語られている。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第122回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が6回目の参加。初めて、お題全部を使いました。
ひそかに温めている、架空世界ファンタジーネタから流用して書いてみました。……本来、中編予定のネタなので、いろいろ中途半端感がすごいですね(爆)……いつか、もっとちゃんとした形にしたいです。

2020年7月11日 (土)

第121回2代目フリーワンライ企画/2020.7.11

使用お題:今日の星占いで一位
タイトル『恋人たちの星占い - the horoscope of lovers -』

 若干まだ寝とぼけながら起きていくと、テレビを観ていた彼女が振り返った。
 「あ、おはよう。朝ごはんできてるよ」
 匂いで予想はしていたものの「おや」と思う。まだ6時前、あと30分は遅くとも充分に間に合うはずなのだが。そう考えたところで思い出した。
 「……あーそっか、今日から研修か」
 二人そろって新入社員となった4月以降、なんやかやと新人特有の予定が組み込まれていて忙しい。暦はすでに6月だが、彼女の会社では、入社1年目を対象とした営業所での研修が、今日からの1週間行われると聞いていたのだ。それをすっかり忘れていた。
 「うんそう。7時半集合だから、あと20分くらいで出なきゃいけなくて」
 「ゆうべ、悪かったな」
 と言うと、彼女は一拍置いた後、赤面する。昨日は日曜日。いつもなら会った後、彼女の部屋があるマンションまで送ってゆくのだが、……なんというか、自分が昨夜は妙に盛り上がってしまって、彼女を帰さなかった。結果、泊めてしまった上に、あまり寝させなかったような気がする。いや、記憶をたどる限り、間違いなくそうだろう。
 「…………いいよ、私も、断らなかったし」
 じんわりと流れた多少の気まずさを、テレビからの陽気なメロディが断ち切った。
 『では、今日の星占い!』
 なんとなく合わせている朝の情報番組で、正時の前に必ず出てくる星占いコーナー。二人同時に、ぱっと画面を見る。
 『今日の一位は、さそり座です。やること全部がうまくいく日。ただし油断は禁物ですよ』
 彼女と顔を見合わせて、くすっと笑った。全部が上手くいくのに油断が禁物とは、ちょっと矛盾してはいなかろうか。
 『ラッキーカラーは緑、相性がいいのは双子座の人!』
 ナレーションはそう言って、次の星座へと話題を移す。彼女に親指を立てて見せると、彼女も同じ仕草で返した。二人とも星座はさそり座、ついでに言えば同じ日が誕生日である。
 「なあ、こういうのってさ」
 「え?」
 「星占い。相性がいい星座、同じ星座って言われなくない?」
 「……あー、そういえば聞いたことないかも」
 「だろ」
 そういえばそうだよね、ともう一度つぶやき、彼女はうんうんとうなずいている。その、何気ない話題であっても真面目に受け止めて考える姿は、実に彼女らしい。そういえば11月19日生まれは「性格が真面目で素直」という文章を、どこか何かで見たような気もする。
 「ま、でも」
 言いながら、ローテーブルの前に座る彼女の、すぐ後ろに膝をついた。
 「当たる占いばっかじゃないもんな。同じ星座だって相性いい時はいいし」
 後ろから腕を回して抱き寄せると、彼女はまた一拍置いた後、今度は「えっ」と慌てた声を出す。
 「な、なに。どういう意味」
 「こういう意味」
 ちょっと振り返った彼女の顔を固定し、唇を近づけた。
 ──1.5秒ののち。
 「で、電車混むといけないから、早めに出る。行ってくるね」
 こちらを押しのける勢いで立ち上がり、バタバタと彼女は出勤準備を始めた。
 付き合って何年経っても、照れ屋が治らない彼女。からかいすぎただろうか、と少しだけ反省する。あくまでもほんの少しだが。
 「じゃあ、行ってきます。悪いけど片付けよろしくね」
 「オッケー、気をつけてな」
 うん、とうなずいた彼女が、荷物も服装も全部そろえているはずなのに、なぜか玄関で静止している。ちらちらとこちらを見ながら。
 「どうした?」
 実は忘れ物でもあるのか、と近づくと、腕を引かれた。予期せぬ力で体ごと、必然的に顔も彼女に近づいた時、ふわりとした感触を唇に感じる。
 「────」
 「──、行ってきますっ」
 顔を真っ赤にし、早口で言い置いて、彼女は今度こそ出かけていった。
 ……彼女が、自分からキスしてくるなんて珍しい。
 今日は全てがうまくいく日、という占いは、どうやら当たっているようだ。こみあげてくるニヤニヤ笑いが、しばらくはおさまりそうにない。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第121回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が5回目の参加。
拙作『anniversaire』シリーズの、主人公カップルを用いて書きました。ちゃんとした恋人同士になるには年月を要した二人ですが、なってからはおおむね、こんな感じでいちゃついている二人です(笑)

2020年6月13日 (土)

第117回2代目フリーワンライ企画/2020.6.13

使用お題:一番の弱虫
タイトル『弱虫を卒業したら』

 1コ下の幼なじみは町で一番の弱虫だった。いつもガキ大将グループに泣かされる、情けない男子。そのたびに助けに駆けつけたのは私。オトコ女と呼ばれたり、夫婦と茶化されたりしたけど、かまわなかった。あいつを助けるのが私の使命、私だけの役目だと思っていたから。
 ……なのに、あれから約10年が経って。
 「鮎原くーん、こっち向いてよ」
 「やーん恭くん笑った、かわいいー」
 「一緒にカラオケ行こうよー」
 今じゃ、幼なじみは我が校のアイドル。中性的な童顔と長身のアンバランスが可愛い、そんな評判を獲得している。確かに、中3ぐらいからどんどん伸びた身長は、高校入学時から目立つ要素ではあったけれど。
 がらり、と生徒会室の扉が開いた。
 「失礼します」
 「あっ鮎原くんだ。ねえねえ、お菓子食べてかない?」
 「すいません、この後部活なんで。あ、多美ちゃん」
 副会長(3年生)の誘いをやんわりと断った後、恭太は私に声をかけてくる。
 「……なに?」
 「母さんが帰りに寄ってって言ってたよ。またおかず作るからって」
 「わかった」
 「じゃーね、行ってきます。失礼しました」
 「ちょっとちょっと、会計?」
 「なんですか」
 「あれ、打診してくれてる? 来年度の役員選挙に出ろって話」
 「いちおう言いましたけど。でも興味なさそ」
 「そこを興味持たせるのが役目でしょ。あれが生徒会入りしてくれれば求心力間違いなしなんだから」
 「──努力はします」
 胸倉つかむ勢いの副会長と一定の距離を保ちつつ、そう答えた。そうとしか言いようがない。あいつを、関心のないことに目を向けさせることがどれだけ難しいか、小さい頃から知る間柄だけによくわかっている。
 ……わかっている、はずだった。

 「いつもありがとうございます、おばさん」
 「いいのよ、隣同士じゃない。今日もお母さん遅いの?」
 「はい、夜勤なんで」
 「介護ヘルパーも大変ねえ。あ、恭太おかえりなさい」
 「ただいまあ。あ、今日は肉じゃが?」
 「そうよ。ほらほら、そんなとこ突っ立ってると多美子ちゃんが通れないでしょ」
 失礼します、とそそくさと鮎原家を出て、隣の森坂家、イコール自宅に戻る。
 玄関に入って扉を閉めた途端、ため息が出る。
 ……ずっとこうだ。恭太が、高校に入学してから。
 中学の途中までは私より背が低くて、頑固なくせに弱っちい、昔からの性格も変わらなかった。何かあるたびに私が助けて、私が守ってきたのだ。
 そういう関係性が、180度変わるなんて、考えなかった。

 今じゃ、私が助けなくても、守らなくても、恭太は平気なんだ。
 ……当たり前だ、あいつだって成長する。いつまでも弱っちい子供じゃない。
 それを認められない──「みんなの鮎原くん」になっていることを寂しく感じてしまう、私が今では、一番の弱虫に違いない。
 インターホンが鳴っているが、出る気になれなかった。放っていると、今度は寄りかかっている扉が直接叩かれる。「多美ちゃん多美ちゃん、生きてますか?」という言葉付きで。
 「…………生きてるわよ、なんなの」
 「おばちゃん遅いんでしょ。せっかくだからうちで食べてったらどうかなーって」
 「おばさんが言ったの?」
 「いや、俺がそう思ったの。なんか多美ちゃん元気なさげだから」
 「──あ、そう」
 とっさに出るのは愛想のない口調で、愛想のない言葉。感じた嬉しさを正直に表に出すことは、できなくて。
 「ほら行こ。メシが冷めないうちにさ」
 ごく自然に背中に触れて促す、大きな手。その感触が、湿った心をほんのりと乾かし、温めてくれる。その事実が照れくさくも、嬉しい──
 「ちょっと待って、タッパー冷蔵庫に入れてくるから」
 頬に上った熱に気づかれたくなくて、いったん家の中に逃げ込む。この感情が何なのか、素直に自覚できる頃には、私は弱虫から卒業できるだろうか?
 そうなりたい、と心から思いながら、幼なじみが待つ玄関へと戻っていく。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第117回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。今回が4回目の参加。
私の原点、ともいうべき幼なじみ同士の恋愛ものです。まあこの物語だとまだ、恋愛未満ですが。さてこの二人はどうなるのかな?(笑)

2020年6月 6日 (土)

第116回2代目フリーワンライ企画/2020.6.6

使用お題:造作もない
タイトル『魔女アリスネイルの特訓』

 「娘の熱が下がらないんです、どうか薬を」
 「好きな人を振り向かせたいから、惚れ薬をお願い」
 「夫の暴力から逃れたいんです。心変わりの薬ありますか」
 魔女、アリスネイルの館には、様々な理由で人々が訪ねてくる。決して開放的には見えない、薄暗い古びた館を訪れる人が絶えないのは、魔女が薬作りの名人だから。各々の切実な願いをもって発される依頼に、魔女の答えはいつも同じ。
 「造作もないね。ほら薬」
 テーブルにことりと置かれる小さな瓶。依頼人たちはそれを、何よりも大事そうに抱きしめて家路につく。
 だが、どんな依頼にでも即座に首肯するわけではない。憎い奴を殺したい、戦争に勝つために強くなりたい、そういった願いに対しては相手を懇々と諭し、悩みを和らげる薬を入れた茶を供して、帰らせる。数百年を生きた存在だからこそ、その言葉には真実味があり、曇った心にも届くのだろう。

 さてその日、館にやって来たのは、一人の若い娘。
 部屋の扉をきしませながら入ってきた彼女の表情は、冴えなかった。そして容貌自体も。
 「おやおや。どうしたんだい」
 「…………」
 「黙ってちゃわからないよ。頼みごとがあるんだろう、言ってごらん」
 娘はうつむいたまま、すうっと息を吸い込んだ。そして顔を上げる。
 「……ふられたんです」
 ふんふん、と魔女は頷く。何百回、何千回と聞いてきた、苦しみの吐露。
 惚れ薬が欲しいのかい、との問いに反し、娘は首を振った。
 「あんな人、もうどうでもいいです。それよりも」
 小さな緑の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
 「ふられたのは私がきれいじゃないからって、馬鹿にした人たちが許せない。あの人たちを見返したい」
 そう言って、こちらをまっすぐに見つめる目には、魔女でも長らく見たことのないような強い光があった。背筋を伸ばした立ち姿、引き結んだ唇。いずれにも揺るぎない決意が感じられる。
 魔女の口を動かしたのは、悪戯心か、同情心か、あるいは。
 「なら、おまえさん。私の弟子になってみるかい?」

 「……アリスネイルさん」
 「師匠だよ」
 「師匠、どうして、魔女の修行、に体力作りがあるんですか」
 「何言ってんだ。魔女は長生きなんだよ、健康でないとまともに商売ができないじゃないか」
 「じゃあこの、顔面体操も?」
 「もちろんだよ。あんたの顔は見栄えがするとは言えないが、表情はいくらでも作れる。笑った顔が魅力的なら、元の容貌の何倍も、何十倍も良く見えるもんだ」
 商売は印象が大事だからね、と魔女の師匠は笑う。数百年の年を経てしわを刻んだ顔に、昔は讃えられたであろう美貌の片鱗が、蘇ったように見えた。

 そうして、さらに百年近くが経った頃。
 かつての魔女は病床で、残り少ない時を過ごしていた。
 「師匠、薬湯です」
 「おやおや、もうそんな時間かい」
 弟子が運んできた器を、受け取る力はもはや無い。上半身を支えてもらい、器の縁を口に当ててもらってようやく、薬湯を少しずつ啜る。
 「客は、帰ったのかい」
 「はい。今日はそれほど、訪ねてくる人もいませんでしたし」
 ふんふん、と頷く仕草は、起き上がれなくなった今でも変わりない。弟子はそれを、嬉しそうに、かつ少し悲しそうに見つめた。
 「そんな顔をすることはないよ。こういう時が来るのは分かっていたじゃないか、私もあんたも」
 にこりと笑おう──とする顔は、引きつっている。もう、筋肉があまり動かないのだ。布団の上に置かれた手を、たまらずに弟子は握った。
 「師匠、……私は、ちゃんと魔女になれたでしょうか」
 決して美人とは言えないが、生き生きとした大きな緑の目と表情、すらりとした長身の、見た目三十路ほどの女性。かつての冴えない少女の面影は見えないが、この、まっすぐに見つめてくる目の光の強さは、同じだ。
 「当たり前じゃないか。あんたは私の、自慢の弟子だよ」
 薬作りの名人と言われた魔女アリスネイルは、弟子の手を残った力で精一杯握り返し、永遠の眠りについた。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第116回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。私は今回が3回目の参加。
私にはめずらしく、架空世界ファンタジー的に書いてみました。魔女キャラを出すのは、実は今回が初めて。書いていてなかなか楽しかったです。機会があれば、この魔女の過去にもちょっと触れてみたいなあ、とか思っております。

2020年5月30日 (土)

第115回2代目フリーワンライ企画/2020.5.30

使用お題:餌付けすればいいとでも?
タイトル『レモンシフォンと謎の手紙』

 「レモンシフォンケーキ!」
 カフェの椅子に座るやいなや、ハルが叫んだ。慌てて店員さんが飛んできてオーダーを取る。一連のやり取りを、私は縮こまって聞いていた。周囲から集まる視線が痛くて。
 「日和(ひわ)ちゃん、何も頼まないの?」
 黙りこくっている私に、ハルがそう聞いた。恥ずかしくて口を開く気になれなかったが、店員さんの目に急かされて「……アイスティーお願いします」とやっと言う。
 まだ5月半ばだけど、陽気はすでに初夏だ。行きつけのカフェでも、テラス席に座る人がこの前来た時より増えている気がする。季節は確実に移り変わってゆくけれど、春夏秋冬変わらないのが、こいつの食欲である。特に甘いものには目がないところも。
 運ばれてきたシフォンケーキを、ハル──春山晴太郎(はるやませいたろう)は、あっという間にたいらげた。お代わりを頼むために店員さんを呼ぶ姿に、私、松本日和はため息をわざと大きくついてやる。それぐらいしないと気持ちがおさまらない。だがあからさまに文句を言うわけにもいかない。
 今日ここに呼んだのは、私の方なのだし。
 なんとも業腹だが、ハルに相談しなければならないことがあるのだ。
 去年のことだけど、私が家庭教師として勉強を教えていた子がちょっとしたトラブルに遭い、それをハルに助けてもらったことがある。今年、無事に大学に入学したその子が、なにやらまた困ったことになっているらしく、私に電話してきたのだった。
 その際、先生の幼なじみさんにも手伝ってもらえたら、というのがその子直々の申し出でもあった。去年の件以来、彼女はハルをずいぶん信頼しているらしい。
 わからなくはない。あの時のハルは私でも見たことのないような男らしさを発揮していたし、何より見た目が目立つ。周りより頭一つ抜きんでいる長身に加えて、そこそこ見られるルックスをしている。客観的に見ればイケメンの部類に違いない。中身はこんなのだけれど。
 3個目のケーキを胃に納めたハルはやっと人心地ついたのか、コーヒーを飲んでいる。ちなみにこれは2杯目。
 「それで、話って?」
 促され、私は「奏子ちゃん、覚えてるでしょ」と切り出した。
 「カナコちゃん……ああ、日和ちゃんがカテキョウやってた」
 「そう。あの子がね、今年大学入って、まあ勉強はうまくやってるんだけど、困ったことが起きてるって」
 「困ったこと?」
 にわかに、ハルの目が真剣みを帯びる。全教科成績が良いタイプではないけど(だから1年浪人して、こいつも新大学生なのだけど)、限られた分野にはやたらと頭がよく回り、勘も鋭い。
 「変な手紙をもらうらしいの。いつに誰と会ってたとか、家に何時に帰って何時に寝たとか、行動を全部見張ってるみたいな内容の」
 「淡々とだけどやたらと詳しく書いてて、気持ち悪いんだって。でも付けられてる感じとかは気を付けてる限りではないらしいし、誰がやってるのか全然わからなくて怖いって」
 ハルは口元にこぶしを当てて、なにやら考えている様子である。話が進むにつれて頷きの数が多くなっているのは、何か思いついたことでもあるのか。
 私がアイスティーを飲み終える前に、ハルは結論を出したようだった。
 「それってさ、絶対に身近な人の仕業だよ。でなきゃそんなに詳しく知れない」
 「身近、って」
 「最近親しくなった人、特に男とか、いるんじゃない?」
 はっとする。そういえば、学科の演習授業で組んで親しくなった、男子学生がいると言っていなかったか。聞き上手だからついつい、いろんなことを話してしまうのだとも。
 「いるんなら、そいつには気を付けるように言った方がいいよ、奏子ちゃんに」
 「……わかった、それとなく話を聞いて確認してからね」
 「他に相談は? ない? じゃあ、すみませんケーキとコーヒーもうひとつー」
 途端にまた、子供のような無邪気さで、追加オーダーを叫ぶ。ああ、周りの視線が痛い……幼なじみの餌付けは、確実だけど毎度高くつく。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第115回への参加作品です。
毎週(でない時もあるかな?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。私は今回が2回目の参加。
拙作『チョコレートケーキとさみしいきもち』シリーズ(エブリスタに掲載)の、主人公二人を登場させました。実は、短編の3話目にしようかな、と寝かせていたネタでもあります。いずれ時間を取って、ちゃんと短編として仕上げたいと思います。

2020年2月29日 (土)

第102回2代目フリーワンライ企画/2020.2.29

使用お題:四年に一度
タイトル『四年に一度の「おめでとう」』

 2月29日。閏年にだけ存在する、閏日。
 あまり好きな日ではない。誕生日であるにもかかわらず、だ。
 「どうしてよ、一番お得な日じゃない」
 腐れ縁の幼なじみは言うが、僕にはお得になんか思えない。ていうかむしろ損だ。
 「何言ってんだよ、4年に1回しかないんだぞ」
 閏年以外には存在しない日。カレンダーにはもちろん無いし、人々の意識にものぼらない日付。2月28日の次はすぐに3月1日で、2月29日のことなんか皆、かけらも思い浮かばないだろう。
 誕生日当日が無い、ということは自分も本当は存在しないんじゃないか、そんな気分になったことは数知れない。
 「言うことがオーバーねえ。ちゃんと誕生日祝いはしてもらってたでしょ」
 「そりゃそうだけど、おまえにはわかんねえよ」
 こんな不安定な気分は、ごく普通の日が誕生日の奴らには、絶対わからない。
 「ふーん。じゃ、あたしは部活があるから」
 すい、と立ち上がって教室を出ていく幼なじみ。……クラスは違うし、女子テニスは運動部の中でも時間に厳しいはずなのに、毎日何しに来るんだか。幼稚園の時からのつきあいだけどいまだにあいつのことはよくわからない。
 「……ま、いいか」
 僕だってこれから、サッカー部の練習がある。春の大会のレギュラー決めが近いから、遅刻やらサボリやらするわけにはいかないのだ。

 期末試験の勉強中、かつん、と部屋の窓が鳴った。眠いから聞き違いかな、と思ったがまた鳴る。誰かが何か、石みたいなものをぶつけているらしいと気づいて、こんな夜中になんなんだと多少ムカつきながら窓を開ける。と。
 「おっす」
 「……おっす」
 呆然としつつ応えてから、慌てた。近所とはいえあいつの家は少し離れている。こんな時間に何の用だというのか。
 下りてきて、と手招きされたので上着をひっつかんで階段を駆け下りた。
 「なんなんだよ、いったい」
 尋ねるが、幼馴染はなぜかスマホを真剣に見つめていて答えない。ちょっと待って、のアクションなのか、手のひらを上げたまま。
 今年は暖冬だというけれど、夜はやっぱり寒い。つかんできたのは学校へ着ていく上着で、制服の上に着るから薄めだし、なおさら寒い。
 いいかげんにしてくれないかなと思うと同時に、アラームの音がそこそこ大きく鳴って、文字通り少し飛び上がった。その反射的動作にとっさに恥ずかしくなったが、幼なじみは気にしていないのか気づいていないのか、こちらを見ない。真剣な顔を崩さず、その上でなぜだか目を閉じて、深呼吸までしている。
 大丈夫だろうか、と心配になって顔をのぞき込みかけたらぱっと顔を上げられて、また驚かされた。なんなんだよほんとに。
 「…………と」
 「え?」
 「誕生日おめでとう!」
 叫ぶように言って、そういえばずっと後ろに隠していた左手からラッピングの袋を僕に押しつけて。
 水銀灯に照らされた顔は真っ赤だった。
 「……えと」
 「それだけっ、じゃあおやすみっ」
 踵を返す、という言い方がぴったりな速さでくるりと背中を向け、走り去っていく。さっきよりも呆然とした気持ちで見送ってから、なんとも言えない感情、たとえるなら照れくささみたいな気持ちが湧き上がってきた。
 小学生の頃ならともかく、あいつからプレゼントをもらったことなんて長らくなかった。わざわざ、こんな時間に、日付が変わるのを待ってから。
 4年に1回の誕生日に合わせて。
 ──お得、にしてくれたつもりなのかはわからないが、これまでにない出来事だったのは確かだ。今はまだちょっと、頭が混乱しているけど。
 「……明日、どんな顔してるつもりなんだろ」
 そう言う僕も、学校であいつと会った時にどんな顔をすべきか、決められないでいるのだった。


注釈:Twitter上の企画「2代目フリーワンライ企画」第102回への参加作品です。
毎週(でない時もある?)土曜日の夜10時に、運営アカウントから5つほど出されるお題の中から1つ以上選んで、10時半~11時半の1時間で書き上げるという企画。私は今回が初参加でした。
私の性癖というか、よく使う要素(恋愛、幼なじみ、サプライズなど)を詰め込んだ感じの話になりました~(笑)